木犀の香に立ちどまり秋の歩みを聴く

十月も半ばになると、朝の空気に、ひとつ季節が進んだことを感じます。玄関を出たときの頬の冷たさに、薄手の上着を取りに戻る。そんな小さなことが、秋の深まりを教えてくれます。昼間にはまだ汗ばむ日もありますが、日陰を渡る風は涼しく、道端の草の色も、いつの間にか落ち着いています。

どこからともなく金木犀の香りが届くと、足が少し緩みます。花の姿を探して見上げれば、葉の間に小さな橙色が集まっています。毎年知っているはずの香りなのに、その年の最初の一度には、いつも不意を突かれます。思い出すのは、昔暮らした町の夕暮れだったり、学生の頃に歩いた道だったりします。しばらく忘れていた景色が、香りとともに戻ってきます。

筑波の山並みも、澄んだ空の下で輪郭を増して見えます。田には刈り跡が並び、稲わらの匂いを含んだ風が通っていきます。木々が一斉に色づくにはまだ早く、緑の葉の中に、黄や赤がわずかに交じる頃です。その控えめな変化を見つけることに、この時季ならではの楽しみがあります。昨日と同じ道を歩いていても、目に入るものは少しずつ違っています。

夕方、机に向かっているうちに、窓の外が思いのほか暗くなっていることがあります。少し前まで明るかった時刻に、もう街灯がともっている。残った仕事に目を落としながら、今日も一日が過ぎたのだと思います。読みかけの論文、対応しかけの査読、整理を待つ記録、学生と交わした短い会話。日々の仕事には、すぐに答えの出ないものも多くあります。それでも、書き留めた一行を読み返して、次に確かめたいことが見つかる夜もあります。

夜には虫の声が多く聞こえ、耳を澄ませて歩きたくなります。十月中旬、秋が深まる気配を、もうしばらく味わっていたいと思います…が、急ぎの仕事が飛び込んできたので明朝までに終わらせます😢

寂しさに 宿を立ち出でて ながむれば いづこも同じ 秋の夕暮 良暹法師『小倉百人一首』第70番

秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ 天智天皇『小倉百人一首』第1番

十月 しぐれに逢へる もみち葉の 吹かば散りなむ 風のまにまに 大伴池主『万葉集』巻八・1590番

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