秋雨の旗の台で、生命のかたちをたどる― 第114回日本解剖学会関東支部学術集会 参加記 ―

鞍馬由惟1,2, 佐々木哲也1,2,3

  1. 筑波大学 医学医療系生命医科学域解剖学・神経科学研究室 2. 筑波大学大学院 人間総合科学学術院 フロンティア医科学学位プログラム 3. 筑波大学大学院 人間総合科学学術院 ニューロサイエンス学位プログラム

2026年10月24日、昭和医科大学旗の台キャンパスで開催された第114回日本解剖学会関東支部学術集会に参加し、口頭発表を行いました。私にとって学会への参加は今回が2度目です。研究内容を限られた時間で伝える難しさを感じるとともに、自分の専門以外にどのような研究が行われているのかを知る機会になりました。

会場のある昭和医科大学は、1928年に昭和医学専門学校として開校し、2025年4月に昭和大学から現在の名称に変わりました。旗の台という地名は、源頼信がこの地で源氏の白旗を掲げたという伝承に由来します。当日は雨で、駅から会場への道で少し迷ってしまいましたが、大学の正門には学会の案内が掲示されていてほっとしました。会場には前方の大きなスクリーンに加えて中央付近にもディスプレイが複数あり、発表資料を確認しやすい配置になっていました。

私は学部で臨床検査学を学び、免疫検査学・遺伝子検査学の研究室で炎症反応や遺伝子解析、細胞培養に触れてきました。現在は、それまでに学んだ免疫学の知識を生かしながら、脳の発達と免疫の関係について研究しています。今回の発表では、母体の免疫反応と仔の脳の発達との関わりについて、これまでの研究の経過を紹介しました。日頃の実験で得られた結果を発表用にまとめる際には、研究の目的が伝わるよう、背景と結果をどの順番で説明するかを考えました。普段は自分の中で理解したつもりになっていることも、初めて聞く方に向けて説明しようとすると、言葉を補う必要があると気づきます。準備を通して、自分の研究を整理し直すことができました。

事前に研究室内で練習を繰り返したため、発表中は、スライド上の示したい箇所をポインタで指しながら、説明を進めることができました。8分の発表時間に対して、実際には8分20秒ほどかかりました。次回は説明する内容をもう少し絞り、図を示す時間も含めて練習したいと思います。声の届き方やマイクとの距離、話すときの姿勢にも気を配る必要があると感じました。

今回の学会には、一般演題22題と特別講演1題が組まれていました。プログラムと要旨集には、細胞の中で起こる現象から、人体の構造、病気との関係まで、さまざまな研究が紹介されています。細胞膜の修復に関する演題では、膜が傷ついた際に集まるタンパク質や、小胞体由来の膜が修復に関わる仕組みが調べられていました。超解像顕微鏡や電子顕微鏡を使って、修復の過程を追う研究です。マウスの器官形成における細胞死、加齢に伴う骨髄の脂肪化、イヌ骨肉腫細胞の分化についての演題もありました。

神経科学の分野では、無菌マーモセットを用いて、腸内細菌の有無が腸管の神経系に及ぼす影響を調べた研究がありました。また、ビタミンCの不足と新生仔マウスの呼吸中枢の障害を結びつける研究や、神経細胞内の物質輸送に関わる因子と樹状突起形成についての研究も紹介されていました。神経系を理解するうえで、栄養や腸内環境、細胞内の輸送といった異なる側面を考える必要があることが分かりました。

社会ストレスによる血糖や体温の変化と、その調節に関わる神経回路を調べる演題もありました。脳損傷時の間葉系幹細胞とミクログリア・マクロファージとの関係、加齢に伴って視床に現れる封入体を扱った研究もあり、脳と身体、免疫、老化をどのように結びつけて調べるのかという点に関心を持ちました。

午後のプログラムには、人体の構造を詳しく検討する演題が並んでいました。肘筋の支配神経を改めて調べる研究、口蓋の筋と腱膜が発生の過程でつながる仕組み、鼻口蓋管嚢胞の成り立ち、顔面動脈の走行の変異などです。内閉鎖筋の研究では、解剖による観察に三次元計測やMRIを組み合わせ、筋の形や筋線維の向きを調べていました。人体の構造を確かめることが、手術や画像診断の基礎になることも読み取れました。

病気に関わる研究では、熱中症モデルマウスの肝臓、腎臓、腸管の組織変化や、高齢者の膵臓にみられる嚢胞性病変が取り上げられていました。このほか、心臓の刺激伝導系の位置を周囲の血管から推定する試みや、活性型レチノイン酸の分布を調べる研究もありました。顕微鏡や画像で捉えた形を、身体の働きや病態と照らし合わせて考えることは、臨床検査学で学んできた内容にもつながります。

特別講演には、松橋事件を題材として、司法解剖における計測の重要性を考える講演が組まれていました。最後の一般演題は、森鴎外の美術解剖学と野口英世の歯の解剖学教育についてでした。解剖学が医療だけでなく、司法や美術教育とも関わってきたことを知る話題として、こちらも興味をひかれました。

2度目の学会参加を終え、発表の仕方を振り返るとともに、今後学んでみたい研究にも出会うことができました。今回の経験を生かし、大学院での研究をさらに推進し、その目的と結果がより伝わる発表を目指したいと考えています。発表の準備をご指導くださった先生方、一緒に研究を進めてくださっている研究室の皆様、ご助言をくださった先生方、大会運営に携わった関係者の皆様に感謝申し上げます。

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