文章を書いている途中で電話が鳴る。相談に応じ、席に戻ると、先ほどまで考えていたことがつかめない。画面には同じ文章があるのに、その続きを書き出せない。仕事や家庭で、誰もが経験する場面ではないでしょうか。マルチタスクは効率が悪いと言われます。しかし、複数の役割を担う生活では、中断を完全になくすことは困難です。そこで身につけたいのが、中断しても大切な仕事を見失わず、続きを始められる習慣です。
仕事に戻る際には、単に作業名を思い出すだけでは足りません。「何を確かめようとしていたか」「どこまで終わったか」「次に何をするつもりだったか」という、思考の途中経過を取り戻す必要があります。認知心理学では、中断前に再開の準備をすることが、この負担を軽くすると考えられています[1]。
その知見を日常に取り入れる方法が、「次の一手」を短く書き残すことです。「原稿の続き」ではなく、「文献Aの図2を開き、対象年齢を確認する」と記します。考察の途中なら、「結果の説明まで書いた。先行研究との違いは未確認」と添えてもよいでしょう。未来の自分が迷わず動ける程度の具体性が大切です。この準備は、割り込んできた仕事に向き合うためにも役立ちます。相談を聞きながら元の仕事を気にしていると、目の前の話に集中しにくくなります。Leroyらの研究では、再開時の時間的な切迫を予想すると元の仕事への注意が残りやすくなり、戻り方を短く計画しておくことで、その影響が軽減されました[2]。
戻ったときは、メモを読み、最後に完了した箇所を確認してから、次の一手に取りかかります。急いで再開するだけでは、手順を飛ばしたり、同じ作業を繰り返したりしかねません。短い割り込みでも、順序立てた課題の誤りが増えることが実験で示されています[3]。会議に出る前や別の仕事に移る前など、自然な区切りで一行残すことから始められます。戻りにくかった日は、メモに目的、作業箇所、次の行動のどれが足りなかったかを振り返ります。
再開の練習が別の課題にも役立ったという研究はありますが、あらゆる仕事への効果が保証されているわけではありません[4]。それでも、自分の仕事に合う戻り方を探すことはできます。席を離れる前の一行が、途切れた思考の続きを見つける手がかりになります。
参考文献
- Trafton JG, Altmann EM, Brock DP, Mintz FE. Preparing to resume an interrupted task: Effects of prospective goal encoding and retrospective rehearsal. International Journal of Human-Computer Studies. 2003;58(5):583–603. 論文リンク
中断前の準備と、再開を助ける記憶過程を検討した研究です。www.sciencedirect.com - Leroy S, Glomb TM. Tasks interrupted: How anticipating time pressure on resumption of an interrupted task causes attention residue and low performance on interrupting tasks and how a “ready-to-resume” plan mitigates the effects. Organization Science. 2018;29(3):380–397. https://doi.org/10.1287/orsc.2017.1184
再開計画が、元の仕事への注意の残留を軽減することを示しています。experts.umn.edu - Altmann EM, Trafton JG, Hambrick DZ. Momentary interruptions can derail the train of thought. Journal of Experimental Psychology: General. 2014;143(1):215–226. PubMed
短い中断による、作業順序の誤りを検討した研究です。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov - Jones WE, Moss J. Assessing the transfer of interruption resumption skill to novel tasks. Journal of Experimental Psychology: Applied. 2019;25(2):230–244. https://doi.org/10.1037/xap0000193
再開技能の練習効果が、別の課題へ転移する可能性を示しています。


