首は振り向くために生まれたのか?

Nature | News & Views | Published: October 14, 2026
DOI: 10.1038/d41586-026-03061-8

How early tetrapods got their neck 初期四肢動物はどのように首を獲得したのか

Tatsuya Hirasawa 平沢 達矢
Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo, Japan

Abstract

魚類から四肢動物への進化において、頭蓋骨が肩帯から分離したことは、首の成立につながる重要な変化であった。従来、この分離によって頭部を独立して動かせるようになり、陸上で周囲を見渡したり、頭を持ち上げたりする能力が獲得されたと考えられてきた。しかし、頭と肩が離れることは、その間にある頸部が柔軟になることを必ずしも意味しない。

平沢達矢氏による本解説は、Korneiselらの研究を取り上げ、初期四肢動物の首が予想に反して硬かったことを紹介している。研究では、脊索を主体とする体軸骨格を保持する現生のチョウザメを用いた力学的試験と、化石骨格から復元した解剖学的情報を組み合わせ、初期四肢動物の頸部の可動性を推定した。その結果、多くの幹群四肢動物では、頭部の左右方向の運動は6°未満、後方への運動は3°未満に制限され、回旋もできなかったと推定された。

この知見は、首の成立と、頭部を自由に動かす機能の獲得とを分けて考える必要性を示している。解説では、頭蓋骨と肩帯の分離は、頭部運動のためというよりも、前肢による陸上運動と体幹の安定化に関係していた可能性が論じられている。

Results

初期四肢動物の頸部を理解するうえで重要なのは、現在の陸生脊椎動物とは異なる支持構造である。現生の四肢動物では、椎骨とその関節が頭部を支え、運動の方向や範囲を規定している。一方、初期の幹群四肢動物では、このような椎骨関節が十分に発達しておらず、頸部の支持には脊索とその周囲の軟組織が大きく関与していた。そのため、骨性関節の形状から運動を復元する従来の方法だけでは、首の可動性を評価することが難しかった。

Korneiselらは、この問題を検討するため、脊索を主体とする体軸骨格を保持するレイクスタージョン(Acipenser fulvescens)を用いた。化学処理を施していない新鮮な体軸骨格で力学的試験を行い、その結果を、化石から推定される脊索や筋の大きさ・位置と組み合わせた。これにより、初期四肢動物の頸部がどの程度曲がりにくかったのか、また筋力によってどの程度の運動が可能だったのかを推定した。

解析の結果、脊索を主体とする頸部は、軟組織が多いにもかかわらず高い剛性を持つことが示された。多くの幹群四肢動物で、頭部の左右方向の運動は6°未満、後方への運動は3°未満と推定され、回旋運動もできなかった。頭蓋骨と肩帯の骨性連結が失われても、頭部を大きく動かす能力が直ちに成立したわけではなかったのである。なお、これらは現生動物の実験と化石形態に基づく推定値である。本解説記事には、種ごとの可動域、標本数、推定誤差などの詳細は示されていない。

図1.首の進化と支持構造の変化。 ポリプテルスなどの現生魚類では、頭蓋骨と肩帯が鰓蓋骨を介して連結されている。一方、アカントステガなどの初期四肢動物では頭蓋骨と肩帯が分離したものの、脊索を主体とする頸部の可動性は限られていたと推定される。ウマなどの羊膜類では、椎骨関節に支えられた可動性のある首が成立している。本図は、頭と肩の分離と、柔軟な頭部運動の獲得が、同一の変化ではないことを示している。

Discussion

本研究が問い直すのは、現在の動物の姿から、進化の初期段階の機能を推し量る見方である。私たちは首を、頭を持ち上げたり、振り向いたりするための構造として理解している。しかし、首が成立した当初から、現在と同じ役割を果たしていたとは限らない。頭蓋骨と肩帯の分離という形態的変化と、柔軟な頭部運動という機能的変化は、異なる段階で進んだ可能性がある。

平沢氏は、頭蓋骨と肩帯の分離を説明する機能的背景として、前肢による陸上運動と体幹の安定化に注目している。水中とは異なり、陸上では重力に抗して身体を支持し、前肢を使って移動する必要がある。首の成立は、こうした運動に伴う身体の力学的再編成と関係していた可能性がある。ただし、頸部の可動性が小さかったという推定結果と、体幹の安定化が首の成立を促したという進化的説明は区別する必要があり、後者は有力な解釈として提示されている。

また、首の進化を構成する変化は、すべて同時に起きたわけではない。記事では、頭蓋骨と肩帯がまだ機械的につながっていた板皮類において、頸部の筋系がすでに存在していたことが紹介されている。さらに羊膜類では、発生過程で内臓が頸部から胸部へ移ることが、頸部の伸長と柔軟性を可能にする変化として論じられている。筋系、骨格、内臓配置のそれぞれが異なる時期に変化し、現在の首の構造と機能が形づくられてきたと考えられる。

解剖学の視点からは、身体の運動を骨の形だけで説明できないことも重要である。関節の構造に加え、軟組織の剛性、筋力、身体に加わる荷重を合わせて考える必要がある。初期四肢動物の硬い首は、形態と機能の関係を具体的に検討するための好例であり、私たちが何気なく行う頭部運動にも、長い進化の過程が重なっていることを教えてくれる。

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