DISC1欠損が導くミクログリア異常とシナプス機能障害

Science Advances, 2025

  • Volume: 11 Article number: eadw0128 Published: 29 August 2025 DOI: 10.1126/sciadv.adw0128

Cytoskeletal control in adult microglia is essential to restore neurodevelopmental synaptic and cognitive deficits 成体ミクログリアにおける細胞骨格の制御は、神経発達期のシナプスおよび認知機能の障害を回復するために不可欠である

Sofie Kessels et al.

Biomedical Research Institute, BIOMED, Hasselt University, UHasselt, 3590 Diepenbeek, Belgium.

Abstract

神経発達障害ではシナプス機能不全が中心的な病態であり、リスク遺伝子には細胞骨格制御に関連するものが多い。しかし、その研究の大部分は神経細胞を対象としており、ミクログリアにおける細胞骨格制御の役割は不明であった。

本研究では、アクチン結合タンパク質を統合するスキャフォールドタンパク質**DISC1(Disrupted-in-Schizophrenia 1)**を遺伝学的に障害することで、ミクログリアのアクチン細胞骨格制御を撹乱した。

DISC1欠損ミクログリアでは、アクチン制御のバランスが板状仮足(lamellipodia)優位から糸状仮足(filopodia)優位へシフトし、シナプスタンパク質の取り込みが過剰になった。Disc1 locus impairment(Disc1 LI)マウスでは海馬の興奮性シナプス伝達が低下し、空間記憶障害を呈した。

さらに、成体Disc1LI/LIマウスに正常WT骨髄由来ミクログリア様細胞を導入すると、シナプス機能と認知機能が回復した。

したがって、本研究はミクログリアのアクチン細胞骨格リモデリングがシナプス恒常性と認知機能維持に重要であり、成体期であってもミクログリア細胞骨格を治療標的にできる可能性を示した研究である。

結果

まず著者らは、DISC1がマウス初代ミクログリア、ヒト胎児・成人ミクログリア、iPSC由来iMicrogliaに発現していることを確認した。RICS解析では、eGFP標識DISC1の拡散係数がアクチンに富む領域で低下し、DISC1がF-actinと直接または間接的に相互作用することが示唆された。Disc1WT/WTミクログリアでは76%が板状仮足優位、10%が糸状仮足優位であったのに対し、Disc1LI/LIでは板状仮足が30%に減少し、糸状仮足が41%に増加した。また、Disc1LI/LIでは総F-actin密度も低下した。ライブイメージングでは板状仮足のF-actin変位が低下する一方、糸状仮足のF-actin運動は亢進し、直鎖状アクチン形成を促すFormin1の発現も増加した。これらから、DISC1欠損はARP2/3依存性の板状仮足形成からformin依存性の糸状仮足形成へアクチン動態をシフトさせることが示された。

23週齢マウス由来の8112個のミクログリアを用いたscRNA-seqでは、Disc1LI/LIで転写状態の多様性が低下し、補体カスケード、ファゴソーム形成、アクチン細胞骨格関連経路に変化が認められた。特にC1qa、C1qb、C1qcが上昇し、WTで約25%を占める抗貪食性CD55陽性クラスターがDisc1LI/LIでは消失した。P21脳ではDisc1LI/LIミクログリアの総分岐長と形態的複雑性が低下し、二光子イメージングでも監視能、突起伸長速度、退縮速度が低下した。一方、海馬CA1ではPSD95陽性シナプス材料の取り込みが有意に増加し(P = 0.0074)、in vitroのシナプトソーム貪食実験でも取り込み量が増加した。すなわちDISC1欠損は、ミクログリアの監視・運動能を低下させながら、シナプス貪食を亢進させる機能転換を引き起こした。

さらに成体で骨髄移植とPLX5622処置を行い、85%以上をドナー由来ミクログリア様細胞に置換したところ、Disc1LI/LIマウスにWT細胞を導入したWT→LI群では、空間記憶、海馬CA1のmEPSC頻度、シナプス密度が回復し、PSD95の貪食も減少した。したがって、DISC1欠損によるミクログリア細胞骨格異常が過剰なシナプス除去と認知障害に寄与し、成体期に正常なミクログリア様細胞へ置換することでこれらの障害を回復できることが示された。

議論

本研究の議論では、これまで主として神経細胞側から研究されてきた神経発達障害(NDD)の細胞骨格異常について、ミクログリアのアクチン細胞骨格異常がシナプス機能と認知機能にどのように影響するかという新たな視点が提示されている。著者らは、DISC1欠損によりミクログリアの細胞骨格構築が変化し、ARP2/3依存性の板状仮足形成が低下する一方、formin依存性の糸状仮足形成が亢進すると考えている。この変化は、単なる形態異常ではなく、ミクログリアの機能を「広範囲の監視」から「局所的なシナプス貪食」へ偏らせる機能転換につながると解釈されている。

特に著者らは、貪食様式の違いに注目している。板状仮足を用いる貪食はARP2/3依存性で比較的大きな標的の取り込みに適するのに対し、糸状仮足を用いる貪食はformin依存性で、小さく空間的に限局した標的の取り込みに適するとされる。シナプスは小さく、脳実質内の限られた空間に存在するため、DISC1欠損による糸状仮足優位の状態がシナプスの過剰除去を促進し、その結果として海馬CA1のシナプス数と興奮性シナプス伝達が低下し、最終的に空間記憶障害につながるというモデルが提唱されている。

一方で、DISC1はミクログリアだけでなく神経細胞にも広く発現し、神経発達やシナプス機能に関与するため、Disc1LI/LIマウスの全表現型をミクログリアだけで説明することはできない。この点を補うため、本研究では骨髄移植によるミクログリア様細胞の置換と、神経細胞を含まない初代ミクログリアのin vitro実験を組み合わせ、DISC1欠損がミクログリアの細胞骨格、運動性、貪食能を細胞自律的に変化させることを示した。さらに、成体期にWT由来ミクログリア様細胞へ置換することで、空間記憶と海馬シナプス機能が回復した点は重要である。これは、神経発達期に形成された異常であっても、少なくとも一部は成体期に修復可能であることを示唆する。一方、運動学習障害は回復せず、ミクログリアの寄与が脳領域や神経回路ごとに異なる可能性も示されている。DISC1変異自体は一般的なNDDリスク変異ではないが、ミクログリア細胞骨格異常という共通病態を解析するモデルとして有用であり、成体ミクログリアの細胞骨格制御を治療標的とする可能性が本研究の大きな意義である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください