百日紅―真夏に百日咲く花

真夏の空の下、強い陽射しをものともせず、枝先いっぱいに紅や桃色の花を咲かせる木があります。百日紅(サルスベリ)です。

春の桜が、短い盛りののちに一斉に散ってゆく花だとすれば、百日紅はそれとは対照的です。七月から九月ごろまで、ひとつの花が散っても、また次の花が開き、暑い季節を静かに渡るように咲き続けます。「百日紅」という名は、文字どおり百日にもわたって紅い花を楽しめることに由来するといわれています。

学名は Lagerstroemia indica。ミソハギ科サルスベリ属の落葉樹で、中国南部を中心とする地域を原産とし、日本には古くから庭木として植えられてきました。現在では寺院や公園、街路、民家の庭など、夏の風景の中にごく自然に溶け込んでいます。

近くで花を見ると、その姿は意外なほど繊細です。薄い花弁は縁が細かく縮れ、まるで薄い絹や和紙をそっと揉んだように波打っています。それらが枝先に集まって咲くため、遠くから眺めると、木の梢に淡い雲が浮かんでいるようにも見えます。濃い紅、淡い桃、紫を含んだ色、そして白。花の色によって、その木がまとっている空気まで少しずつ違って感じられます。

「サルスベリ」という呼び名は、滑らかな幹に由来します。古い樹皮が薄く剥がれ落ちるため、幹の表面はつるりとしており、「猿でさえ滑りそうな木」という意味からこの名が生まれました。花の華やかさとは対照的に、幹は静かで端正です。歳月を重ねた木では、白や灰褐色の斑模様が現れ、冬枯れの季節にも独特の美しさを残します。

百日紅がとりわけ印象深いのは、多くの草木が暑さに疲れて見えるころに、むしろ鮮やかさを増してゆくことです。蝉の声が降りそそぎ、陽炎が揺れ、空には大きな入道雲が立つ。その盛夏の風景の中で、百日紅だけは急ぐことなく、次の花をひとつ、またひとつと開いてゆきます。百日紅の長い花期にも、やがて終わりは訪れます。九月の風にわずかな涼しさが混じり始めるころ、花の数は少しずつ減っていきます。百日も咲くと名づけられながら、その長さは永遠ではありません。だからこそ、真夏に見上げるその紅色には、過ぎてゆく季節の気配がどこか重なります。

桜が春の儚さを伝える花ならば、百日紅は、暑さのただ中を耐えながら咲き続ける時間の花なのかもしれません。

構内でも百日紅の花は多く見られます。研究棟の近くにあった百日紅は、某施設の建設のために多くが伐採されてしまいましたが、残された枝に力強い花をつけているのを今も見ることができます。今日も強い陽射しの向こうで、百日紅の花が揺れています。夏はまだ終わらないと告げるように。そして同時に、その長い夏さえ、いつか静かに過ぎてゆくことを知っているかのように。

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