黄金の翼を鎖さぬために

William Shakespeare, Sonnet 87

Farewell, thou art too dear for my possessing,
And like enough thou know’st thy estimate.
The charter of thy worth gives thee releasing;
My bonds in thee are all determinate.

For how do I hold thee but by thy granting?
And for that riches where is my deserving?
The cause of this fair gift in me is wanting,
And so my patent back again is swerving.

Thyself thou gav’st, thy own worth then not knowing,
Or me, to whom thou gav’st it, else mistaking;
So thy great gift, upon misprision growing,
Comes home again, on better judgment making.

Thus have I had thee as a dream doth flatter:
In sleep a king, but waking no such matter.

シェイクスピアの「ソネット第87番」は、「さらば、あなたは私が所有するにはあまりにも高価である」という印象的な言葉で始まる別れの詩です。一般には、シェイクスピアのソネット集の前半に登場する、美貌と身分に恵まれた「美青年」に向けられた作品と考えられています。詩人は、相手との関係が終わろうとしていることを認め、その別れを静かに受け入れようとします。

この詩の特徴は、別れの原因を相手の冷淡さや裏切りに求めず、むしろ相手の「価値の高さ」に求めている点にあります。詩人は、自分にはその人物を引き留める資格がなく、これまで結ばれていた関係も、相手が自らの真価を十分に知らなかったために一時的に成立していたにすぎない、と語ります。ここには深い自己卑下がありますが、それは同時に、去ってゆく相手に対する最大限の賛美でもあります。

原詩には、possessing、estimate、charter、bonds、patentといった、所有権、評価、契約、証書を思わせる法律・商取引上の言葉が繰り返し用いられています。相手の愛や好意は、詩人に永久に与えられたものではなく、取り消すことのできる「特許状」や「契約」のように描かれます。冷静で事務的な語彙を用いることで、詩人は激しい悲しみを抑え、自分の尊厳を保とうとしているのでしょう。しかし、最後の二行で、それまで抑制されていた感情が一気に明らかになります。

「このように私は、夢が人を喜ばせるように、あなたを得ていた。眠りの中では王であったが、目覚めれば何ものでもなかった。」

相手と過ごした時間は、詩人を王のように幸福にしました。しかし、その幸福は夢であり、別れによって現実へ引き戻されます。相手を責めるのではなく、「自分にはもともと過ぎた人だった」と語るところに、この詩の切実さがあります。「ソネット第87番」は、優れた人物が成長し、より広い世界へ進むとき、その価値を認めるからこそ引き留められないという、誇りと喪失が入り交じった惜別の詩として読むことができます。才能ある人が自らのもとを去る場面に重ねるなら、「あなたは私のもとにとどまるには、あまりにも価値が高い」という言葉は、別れの悲しみと相手への敬意を同時に表す、格調高い表現となるでしょう。

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