NEURO2026に参加しました

NEURO2026は、第49回日本神経科学大会、第69回日本神経化学会大会、第36回日本神経回路学会大会の3学会による合同大会です。2026年7月30日から8月2日までの4日間、神戸国際会議場および神戸国際展示場で開催されました。大会テーマは「育め―未来のニューロサイエンティスト」です。国内外から脳科学・神経科学とその関連領域の研究者が集まり、最新の研究成果を共有するとともに、次世代を担う学生・若手研究者を育成することを目指しています。

FENS Forum 2026は、欧州神経科学学会連合(Federation of European Neuroscience Societies:FENS)とスペイン神経科学会が共同で開催する国際神経科学会議です。2026年7月6日から10日まで、スペイン・バルセロナの国際会議施設Fira Gran Via Barcelonaで開催されました。FENS Forumは2年に一度、欧州各国を巡回して開催されるFENSの基幹学会であり、欧州最大級の神経科学会議として世界各国から多数の研究者が参加しました。

本日は、両学会に参加した学生とスタッフが参加報告会を行いました。8月に入り、多くのイベントが進行しており、セミナー参加者が少ないのが少々寂しく感じました。

〇医療科学類4年生が興味を持った演題

K.I.はNeuro2026において、自閉スペクトラム症(ASD)の神経回路基盤から培養神経組織、脳波解析、腸内細菌―脳軸、意思決定の計算論まで、幅広い研究演題に関心を示しました。

第一は、群馬大学の黒岩孝之氏らによる「抑制ニューロンの多様性から見た社会性の獲得と自閉スペクトラム発症機構」です。FOXG1の発現異常をもつASDモデルマウスを用い、生後2週目が将来の社会性障害を規定する臨界期であることを示した研究です。この時期にはGABA作動性抑制回路が一過性に弱まり、その活動を操作すると社会行動が改善または悪化しました。板垣氏は、自身の研究でもP14に抑制性ニューロン密度の減少傾向があることから、抑制性ニューロンの操作とシナプス定量を組み合わせる可能性に注目しています。

第二は、早稲田大学の佐藤有弥氏らによる、コラーゲンゲル上の培養神経細胞回路を大気環境下で計測する研究です。保水性の高いコラーゲンシートに神経スフェロイドを配置し、多電極アレイで同期発火を検出しました。インキュベータ外でも約20分間の活動記録が可能であり、可搬型神経組織やバイオハイブリッドデバイスへの応用が期待されます。

第三は、東京理科大学の駒場雅幸氏らによる、脳波と機械学習を統合したASD関連行動の解析です。Jakmip1欠損マウスでは、通常時のθ波・α波パワーと領域間コヒーレンスが低下した一方、反復的なジャンプ行動中にはこれらが増強しました。行動状態によって神経活動の特徴が変化することを示しており、ASDの客観的な神経指標につながる研究です。

第四は、インドNISERのAnkita Das氏らによる、慢性MPTPパーキンソン病モデルにおける食餌と腸内細菌―脳軸の研究です。高脂肪食負荷が、予想に反して運動・非運動症状や疾患関連遺伝子発現を改善しました。代謝解析からは脂質、アミノ酸、エネルギー代謝の変化が示され、食事が腸―脳間の代謝ネットワークを介して神経変性を修飾する可能性が提起されました。

第五は、生理学研究所の高品貴仁氏らによる、報酬獲得時の柔軟な意思決定を計算論的に説明する研究です。腹側被蓋野から前頭葉領域への経路、D1・D2ドパミン受容体の比率、コリン作動性調節を強化学習モデルに組み込み、高リスク・高報酬と低リスク・低報酬の選択を再現しました。分子、神経回路、行動を計算モデルで結びつけた点が特徴です。

これらの演題は、発達期の神経回路異常を扱う板垣氏自身の研究に直接関連するものだけでなく、新しい培養・計測技術や行動解析、全身性代謝、計算論的アプローチまでを含んでいます。学会参加を通して、ASD研究を多角的に捉える視点と、今後導入しうる実験手法への示唆を得たことを報告しました。ポスターボードの位置が、会場入り口に近く、多くの研究者の方にポスターを見てもらえたと喜んでいました。

〇フロンティア医科学学位プログラム大学院生が興味を持った演題

H.Y.はシナプス可塑性、ミクログリア、記憶、精神疾患、社会的意思決定に関する5つのポスター演題を中心に報告しました。

第一は、統合失調症における忌避学習障害の分子機構を解析した研究です。側坐核のD2受容体陽性中型有棘ニューロンでは、NMDARの活性化を起点として、CaMKII、ARHGEF2、RhoA、ROCK、SHANK3へと連なるリン酸化経路が作動し、樹状突起スパインの成長と忌避学習を支えています。PCP誘導統合失調症モデルでは、この経路とカルシウム応答が抑制されていましたが、活性型RhoAの発現によって学習障害が回復しました。精神疾患の認知障害を、受容体機能からシナプス構造まで結びつけた研究です。

第二は、脳梗塞後の海馬歯状回におけるミクログリアのシナプス貪食に関する研究です。中大脳動脈閉塞後、ミクログリア数自体には変化がない一方、CD68陽性リソソーム内のPSD95陽性成分が増加しました。また、ミクログリアを減少させると樹状突起スパインの喪失が抑えられました。これらの結果から、ミクログリアが特定のシナプスを選択的に除去し、虚血後の神経回路変化に関与することが示唆されました。

第三は、高齢敗血症モデルにおけるミクログリア再増殖の効果です。PLX3397で老化したミクログリアを一度除去し、その後再増殖させると、敗血症後の急性低体温や行動異常が軽減しました。再増殖したミクログリアでは貪食関連活性が高まり、細胞内の老化性色素であるリポフスチンも減少しました。ミクログリアを単純に抑制するのではなく、その細胞集団を更新することで、加齢した脳の神経免疫環境を改善できる可能性を示した研究です。

第四は、恐怖記憶形成時の海馬CA3エングラムニューロン間に生じるシナプス可塑性の研究です。活動した神経細胞を標識するRAMシステムを用いた結果、記憶形成時に活性化された細胞同士のシナプスでは、PSD95の集積とAMPA/NMDA比が増加していました。これは、記憶を担う細胞集団の内部で選択的なシナプス増強が生じることを直接示す成果です。

第五は、マカクザルの戦略的な社会的意思決定を支える前頭前野活動の研究です。協力・競争、指示・選択、相手を信じるか否かといった社会的条件を組み合わせた課題を実施し、皮質電位を記録しました。その結果、役割や対人関係に関する情報が前頭前野に分散して表現され、選択時には主溝周辺の活動がみられました。嘘をつく場面では低周波活動が優位になる傾向も示されました。

H.Y.は今回の学会を通じて、分子、シナプス、グリア、神経回路、行動を横断する多様な研究に触れています。また、事前に演題名だけでなく抄録まで精読することが、発表内容の理解を深めるうえで重要であると振り返っており、次回以降の学会参加に生かしたいと述べました。

〇スタッフIによるFENS Forum 2026参加報告

スタッフSは、スペイン・バルセロナで開催されたFENS Forum 2026に参加し、神経疾患の病態解明と治療法開発に関する多様な研究発表に触れました。特に注目したのは、STXBP1遺伝子変異による重篤なてんかんなどを対象とした研究です。この研究では、シナプス小胞放出に関与するMunc18-1のヘテロ欠損マウスに、内側神経節隆起由来のGABA作動性ニューロン前駆細胞を移植し、行動を含む病態の改善が報告されていました。この他、ナノ粒子を一次視覚野に投与して視覚系疾患の改善を目指す研究、ミトファジーやミクログリア内ミトコンドリアを扱う研究にも関心を寄せました。また、豆に含まれる成分の細胞保護・長寿関連作用を解析した研究では、トランスクリプトーム解析によりgeneXとgeneYの発現変化が認められ、NF-κBおよびPI3K–Akt経路への作用が示されました。さらに、未診断の遺伝性疾患関連遺伝子が神経細胞内、特にシナプス周辺で果たす役割を解析する新しいツールの開発も報告されていました。今回の参加を通じて、細胞移植、ナノ材料、ミトコンドリア、栄養成分、疾患遺伝子解析など、神経科学における幅広い研究手法と国際的な研究動向に触れる機会となりました。FENS2026に参加した様子は下記を参照ください。

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