週末は台風と地震で落ち着かない時間を過ごしました。ラボセミナーでは、医療科学類4年生が論文紹介を行いました。大学院生はインターンのエントリーシートの作成や講義、レポート課題などで忙しいようです。夏の大学院入試や次の実習が近づいてきたのでバタバタしています。医学類M5学生のように、穏やかな性格で、なおかつ才気に満ちた力のある学生をinviteしたいので頑張ります。
Molecular Psychiatry (2026) 31:3154–3168、DOI https://doi.org/10.1038/s41380-026-03454-1 公開日 2026年2月9日
Cerebellar microglia-derived IL-17A mitigates autism-related behavioral and synaptic deficits
小脳ミクログリア由来IL-17Aは自閉症関連の行動異常およびシナプス異常を軽減する
Jun Yin et al. State Key Laboratory of Pharmaceutical Biotechnology, National Resource Center for Mutant Mice, Department of Anesthesiology, Nanjing Drum Tower Hospital, Institute for Brain Sciences, and Department of Physiology and AI Biology, School of Life Sciences, Nanjing University, Nanjing, China. 南京大学生命科学学院、製薬バイオテクノロジー国家重点実験室、変異マウス国家資源センター、南京鼓楼病院麻酔科、脳科学研究所、生理学・AI生物学部門(中国・南京)
Abstract
インターロイキン17(IL-17)は、主に末梢のヘルパーT細胞17(Th17細胞)によって産生される多面的なサイトカインである。しかし、中枢神経系の細胞に由来するIL-17が脳で果たす機能については、まだ十分に理解されていない。本研究では、自閉スペクトラム症(ASD)の確立された遺伝学的モデルである Fmr1-KOマウス の小脳において、IL-17Aシグナルに異常があることを見いだした。小脳のIL-17Aは ミクログリアにのみ由来 しており、社会行動の調節に必須であった。その作用は、社会的認知に重要な脳領域である小脳Crus Iのプルキンエ細胞において、神経興奮性を維持し、抑制性神経伝達を選択的に抑制することによって生じていた。
小脳プルキンエ細胞でIL-17受容体を介するシグナルを特異的に低下させると、ASD様の社会性障害と反復行動が再現された。注目すべきことに、IL-17Aを直接投与すること、または poly(I:C) によって小脳ミクログリアからのIL-17A放出を誘導することのいずれによっても、プルキンエ細胞の興奮性が効果的に回復し、ASD様症状が改善された。これらの知見は、小脳における社会的情報処理にミクログリア由来IL-17Aが不可欠な役割を果たすことを明らかにし、ASDに対してIL-17Aシグナルを標的とする潜在的な治療戦略を示唆するものである。

Results
本研究では、ASDの遺伝学的モデルであるFmr1-KOマウスを用いて、小脳Crus I領域のプルキンエ細胞の機能を調べた。Fmr1-KOマウスでは、野生型マウスと比べてプルキンエ細胞の自発発火率が有意に低下していた。一方、抑制性シナプス後電流であるsIPSCの振幅は増加していたが、頻度には変化がみられなかった。また、興奮性シナプス後電流であるsEPSCの振幅や頻度にも有意な差はなかった。これらの結果から、Fmr1-KOマウスの小脳プルキンエ細胞では、主に抑制性入力が強まることで神経興奮性が低下していることが示された。
続いて、小脳Crus I領域のRNA-seq解析を行ったところ、Fmr1-KOマウスでは野生型マウスと比べて380個の遺伝子が発現上昇し、300個の遺伝子が発現低下していた。KEGG解析では、免疫応答、シナプス可塑性、神経活動に関連する経路が多く含まれており、なかでもIL-17シグナル経路の活性化が目立っていた。さらにqPCRとタンパク質解析により、IL-17ファミリーの中でもIL-17Aが小脳Crus Iで特異的に増加していることが確認された。加えて、IL-17Aの主要な受容体であるIL-17RAも、mRNAおよびタンパク質の両方で増加していた。
免疫染色では、IL-17AはIba1陽性ミクログリアと共局在していたが、プルキンエ細胞、アストロサイト、T細胞とは共局在していなかった。つまり、小脳内のIL-17Aは末梢由来の免疫細胞ではなく、局所のミクログリアによって産生されていることが示された。また、Fmr1-KOマウスでは、IL-17A陽性ミクログリアの増加がP7、P14、P21、8週齢の各段階で認められた。したがって、この変化は成体になってから生じる二次的な反応ではなく、発達早期から持続する現象だと考えられる。
機能解析では、IL-17Aを小脳切片に投与すると、プルキンエ細胞の自発発火率が上昇し、sIPSCの振幅が低下した。一方、sIPSCの頻度やsEPSCには影響しなかった。さらに、野生型マウスの小脳Crus IにIL-17Aを投与すると、社会性行動が増加した。逆に、IL-17RAを阻害したり、プルキンエ細胞でIL-17RAを特異的にノックダウンしたりすると、プルキンエ細胞の発火率は低下し、sIPSC振幅は増加した。その結果、社会性の低下と反復行動の増加が生じた。
さらにFmr1-KOマウスにIL-17Aを投与すると、低下していたプルキンエ細胞の発火率が回復し、増大していたsIPSC振幅も低下した。この効果はNF-κB阻害薬PDTCによって消失したため、IL-17Aの作用にはNF-κB経路が必要であることが示された。行動面でも、IL-17A投与によりFmr1-KOマウスの社会性障害と反復行動が改善した。最後に、poly(I:C)投与は小脳ミクログリア由来IL-17Aを増加させ、Fmr1-KOマウスのASD様行動を改善した。しかし、この改善効果はIL-17RA阻害やミクログリア除去によって失われた。以上から、poly(I:C)の行動改善効果は、小脳ミクログリア由来IL-17Aに依存していると考えられる。
Discussion
本研究は、小脳ミクログリア由来のIL-17Aが、プルキンエ細胞の興奮性と抑制性シナプス伝達を調節し、社会行動を支える重要な神経免疫因子であることを示したものである。IL-17Aはこれまで、主に末梢のTh17細胞が産生する炎症性サイトカインとして理解されてきた。しかし本研究では、中枢神経系に存在するミクログリアが小脳内でIL-17Aを産生し、そのIL-17Aが局所の神経回路に直接作用することが明らかになった。この結果は、IL-17Aを単なる炎症促進因子としてではなく、脳内で神経活動を調整する生理的な因子として捉える必要があることを示している。
特に重要なのは、Fmr1-KOマウスで増加していたIL-17Aが、ASD様症状を悪化させるのではなく、むしろ小脳回路の異常を補う方向に働いていた点である。Fmr1-KOマウスでは、プルキンエ細胞の発火率が低下し、抑制性シナプス入力が過剰になっていた。IL-17Aはこの過剰な抑制性入力を弱め、プルキンエ細胞の発火を回復させた。したがって、小脳ミクログリア由来IL-17Aの増加は、Fmr1欠損によって生じた神経回路異常に対する内因性の代償反応であると考えられる。
分子機構としては、IL-17Aがプルキンエ細胞上のIL-17RAに作用し、NF-κB経路を活性化することで、GABAARやgephyrinなどの抑制性シナプス関連分子を調節していると考えられる。sIPSCでは頻度ではなく振幅が変化していたため、シナプス前終末からの神経伝達物質放出ではなく、後シナプス側のGABA受容体の機能や配置が主に変化した可能性が高い。つまり、IL-17Aは抑制性シナプスの後シナプス構造を調整し、過剰な抑制を弱めることで、プルキンエ細胞の出力を正常化していると考えられる。
また、本研究は、一部のASD症状が発熱時に一時的に改善するという「fever effect」を理解するうえでも重要な示唆を与えている。poly(I:C)はウイルス感染を模倣する免疫刺激であり、Fmr1-KOマウスの小脳ミクログリアからIL-17Aを誘導し、社会性低下と反復行動を改善した。一方、細菌感染を模倣するLPSでは、同様のIL-17A上昇はみられなかった。このことは、免疫刺激の種類によって小脳ミクログリアの反応が異なり、特定の免疫経路だけがASD様症状の改善につながる可能性を示している。
本研究は小脳ミクログリア、IL-17A、プルキンエ細胞を結ぶ経路が、ASD関連行動を調節する重要な軸であることを示している。IL-17Aやpoly(I:C)による免疫調節は、将来的に脆弱X症候群を含む遺伝性ASDの治療戦略につながる可能性がある。ただし、本研究はマウスモデルに基づくものであり、ヒトASDでも同じ機構が働くかどうかはまだ分からない。また、免疫系を操作する治療では、長期的な安全性や発達段階による効果の違いを慎重に検討する必要がある。








