間葉系幹細胞による末梢免疫調節を介した新規統合失調症治療戦略

Translational Psychiatry, 2020年 DOI: 10.1038/s41398-020-0802-1

Human umbilical cord-derived mesenchymal stem cells alleviate schizophrenia-relevant behaviors in amphetamine-sensitized mice by inhibiting neuroinflammation (ヒト臍帯由来間葉系幹細胞は、神経炎症を抑制することでアンフェタミン感作マウスの統合失調症関連行動を軽減する)

Min-Jung You et al. Department of Pharmacology, Research Institute for Basic Medical Science, School of Medicine, CHA University, CHA BIO COMPLEX, 335 Pangyo, Bundang-gu, Seongnam-si, Gyeonggi-do 13488, Republic of Korea

Abstract

現在、統合失調症の治療に利用可能な治療選択肢は、モノアミン系を標的とした抗精神病薬に限られている。近年のゲノムワイド関連解析(GWAS)は、免疫系と統合失調症との密接な関係を示した。このGWASの知見を治療戦略へ応用するため、我々は、統合失調症研究に有用な動物モデルにおいて、強力な免疫調節作用を有するヒト臍帯由来間葉系幹細胞(hUC-MSC)の適用に関する機序および効果を検討した。

統合失調症関連行動はアンフェタミン投与によって誘導し、アンフェタミン感作マウスにおいて、hUC-MSCの単回静脈内投与の効果を調べた。統合失調症関連行動は、オープンフィールド試験、明暗箱試験、社会的相互作用試験、潜在抑制、プレパルス抑制、尾懸垂試験、および強制水泳試験によって評価した。

その結果、アンフェタミン感作マウスにおける統合失調症関連行動には、末梢TNF-αの上昇を伴う神経炎症が関連していることが示された。さらに、hUC-MSCは統合失調症関連行動および神経炎症性変化を抑制した。hUC-MSCの主な機序は、末梢における制御性T細胞(Treg)の誘導と、抗炎症性サイトカインであるIL-10の産生に関連していた。

in vitro研究では、アンフェタミンは神経炎症反応を直接誘導しなかった一方で、組換えTNF-α(rTNF-α)は複数のミクログリア細胞株において、TNF-α、KMO、およびIL-1βのmRNA発現を増加させた。さらに、組換えIL-10(rIL-10)およびMSC馴化培地は、rTNF-α処理ミクログリア細胞における炎症反応を抑制した。

hUC-MSCが中枢神経系に到達することはまれであり、体内に長期間残存しないと仮定すると、これらの知見は、単回のhUC-MSC投与が、アンフェタミン感作マウスにおいて、制御性T細胞の誘導およびIL-10分泌を介して長期的な有益効果をもたらすことを示唆している。

Results

アンフェタミン感作マウスでは、投与中止後1週間以内に躁病様行動が観察されました。OFTでは移動距離、中心領域滞在時間、中心領域侵入回数が増加し、LDでは暗所滞在時間が低下し、TSTおよびFSTでは不動時間が低下した。その後、2–3週間後に実施したSIおよびLIでは、社会性低下と潜在抑制障害が認められた。一方、PPIには差がありませんでした。また、初期に見られた躁病様行動は3週間後には消失していた。神経炎症については、内側前頭前皮質、線条体腹側部、側坐核、海馬歯状回などでIba-1陽性ミクログリアの形態変化が見られ、歯状回を除く領域でIba-1陽性細胞数が増加した。qPCRでは、海馬でTNF-α、KMO mRNAが増加し、線条体ではTNF-α、KMO、IL-1βが増加しました。一方で、線条体では抗炎症性・恒常性関連マーカーであるCX3CR1、CD200R、TGF-β、IGF-1が低下した。hUC-MSC投与は、3XAMPレジメンにおいてFSTの不動時間低下や社会性低下は改善しなかったが、latent inhibitionの障害を完全に救済しました。漸増投与レジメンでは、社会性低下は改善しませんでしたが、TSTおよびFSTにおいて抗うつ様効果を示した。分子レベルでは、hUC-MSCは線条体におけるTNF-α、KMO、IL-1β mRNA上昇を抑制した。末梢では、腸間膜リンパ節におけるTNF-α上昇を抑制し、IL-10およびFOXP3 mRNAを増加させました。血清でも同様に、TNF-αとIL-10が重要な変化を示しました。一方、IL-6、IL-4、IFN-γには大きな変化ははなかった。in vitroでは、アンフェタミン自体はミクログリアに直接炎症反応を誘導しませんでした。一方、0.1 μg/mL recombinant TNF-αはSIM-A9細胞でTNF-α、IL-1β、KMO mRNAを増加させました。MSC conditioned mediaおよびrecombinant IL-10は、このTNF-α誘導性炎症反応を抑制した。

Discussion

本研究では、アンフェタミン感作マウスにおいて、統合失調症様の長期的な行動異常が持続的な神経炎症と関連することが示された。特に重要なのは、この神経炎症がアンフェタミンの直接作用によるものではなく、末梢で上昇したTNF-αがミクログリアを活性化し、脳内でTNF-α、IL-1β、KMOの発現を増加させることで生じる可能性が示された点である。KMOの上昇はキヌレニン代謝異常を介して神経毒性やNMDA受容体機能異常に関与する可能性があり、統合失調症関連行動の一因と考えられる。

hUC-MSCの単回静脈内投与は、アンフェタミン感作マウスの一部の行動異常と神経炎症を改善した。著者らは、静脈内投与されたMSCの多くは肺などに捕捉され、中枢神経系にはほとんど到達しないと考えている。そのため、hUC-MSCの効果は脳内への直接的な細胞移行ではなく、末梢免疫系の調節を介した間接的作用であると解釈されている。具体的には、hUC-MSCは制御性T細胞(Treg)を誘導し、抗炎症性サイトカインIL-10の産生を高めることで、末梢TNF-αの上昇とミクログリア活性化を抑制したと考えられる。

in vitro実験では、アンフェタミン自体はミクログリアの炎症反応を直接誘導しなかった一方、組換えTNF-αはミクログリアでTNF-α、IL-1β、KMO mRNAを増加させた。また、組換えIL-10やMSC馴化培地はこの炎症反応を抑制した。ただし、IL-10単独の静脈内投与では行動異常を十分に改善できなかったため、hUC-MSCの作用はIL-10だけでなく、Treg誘導やTGF-βなど複数の因子を含む複合的な免疫調節効果によると考えられる。

結論として、本研究は、hUC-MSC全身投与が統合失調症の新たな治療候補となる可能性を初めて示した研究である。ただし、アンフェタミンモデルは統合失調症の異質性全体を再現するものではない。臨床応用には、末梢TNF-α高値などのバイオマーカーに基づく患者層別化、最適な細胞数、投与時期、投与回数の検討が必要である。

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