Journal Club (December 18, 2023)

Nature volume 549, pages528–532 (2017)

Maternal gut bacteria promote neurodevelopmental abnormalities in mouse offspring (母親の腸内細菌がマウスの子供の神経発達異常を促進する)

Sangdoo KimHyunju KimYeong Shin YimSoyoung HaKoji AtarashiTze Guan TanRandy S. LongmanKenya HondaDan R. LittmanGloria B. Choi & Jun R. Huh

Department of Brain and Cognitive Sciences, The McGovern Institute for Brain Research, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, 02139, Massachusetts,

Immunobiology and Evergrande Center for Immunological Diseases, Harvard Medical School and Brigham and Women’s Hospital, Boston, Massachusetts, 02115, USA

Division of Infectious Diseases and Immunology and Program in Innate Immunity, Department of Medicine, University of Massachusetts Medical School, Worcester, 01605, Massachusetts, USA

Abstract


母親の免疫活性化(MIA)は、霊長類およびげっ歯類の子孫における神経発達障害に関連した行動異常に関与している。ヒトでは、胎児が母体の炎症にさらされることで、自閉症スペクトラム障害を発症する可能性が高くなることが疫学研究から示唆されている。妊娠中のマウスでは、TH17細胞(複数の炎症状態に関与するCD4+ Tヘルパーエフェクター細胞)が産生するインターロイキン-17a(IL-17a)が、MIAに曝露された胎児の行動異常や皮質異常を誘発する。しかし、MIAに関連した表現型を促進するために、他の母親因子が必要かどうかは不明である。さらに、MIAが母体循環においてIL-17aの増加を伴うT細胞の活性化につながる根本的なメカニズムはよくわかっていない。ここで我々は、子孫におけるMIA表現型には、TH17細胞の分化を促進する母親の腸内細菌が必要であることを示した。腸内TH17細胞を誘導するマウス常在細菌またはヒト常在細菌をコロニー形成させた妊娠マウスは、MIAに関連した異常を持つ子孫を産む可能性が高かった。また、妊娠中の雌の小腸樹状細胞はIL-1β、IL-23、IL-6を分泌するが、妊娠していない雌の小腸樹状細胞は分泌せず、MIAに曝露するとT細胞を刺激してIL-17aを産生させることも示した。全体として、我々のデータは、TH17細胞を誘導する傾向を持つ腸内常在細菌が、感染症や自己炎症症候群によって免疫系が活性化された妊娠中の母親の子供における神経発達障害のリスクを高める可能性を示唆している。

Mum’s bacteria linked to baby’s behaviour

妊娠中にウイルスに暴露されると、時に神経発達障害を持つ子供が生まれることがある。この現象は、TH17細胞やシグナル伝達分子IL-17aに関連する母体の免疫反応と関連している。a, Kimら1およびYimら2は、妊娠マウスにウイルス感染に特徴的な二本鎖RNAと構造的に類似したpoly(I:C)と呼ばれる分子を注射するモデルを用いて、この過程を調べた。b,光遺伝学として知られる技術を応用し、光感受性イオンチャネルを発現するように遺伝子操作された神経細胞を、ある波長の光(ここでは青色で示されている)で活性化または抑制することで、大脳皮質のS1DZ領域の活性化が非定型的な子孫の行動に関連することを明らかにした。S1DZのニューロンは、側頭連合野(TeA)と呼ばれる社会的行動に影響を与える脳領域のニューロンや、反復行動に影響を与える線条体のニューロンに接続していることがわかった。

この研究論文は、妊娠中のマウスにおける母体免疫活性化(MIA)が神経発達障害に関連する行動異常にどのように寄与するかを探求している。特に、妊娠中のマウスにおけるインターロイキン-17a(IL-17a)の役割と、母体の腸内細菌群がこれらの現象にどのように影響するかを中心に研究されている。

概要

この研究は、霊長類と齧歯類の子孫におけるMIAが神経発達障害に関連した行動異常を引き起こすことを明らかにしている。人間の疫学研究によれば、胎児が母体の炎症に曝露されることで、自閉スペクトラム障害の発症リスクが増加することが示唆されている。

背景

MIAは、霊長類と齧歯類の両方の子孫において、神経発達障害に関連する行動異常をもたらすことが知られている。人間における疫学研究は、胎児が母体の炎症に曝露されると、自閉スペクトラム障害の発症リスクが高まることを示唆している。

方法

妊娠中のマウスにポリ(I:C)(ウイルス感染を模倣する合成二重鎖RNA)を注射し、MIAを誘発している。子孫の行動異常や脳の異常を観察し、これらが母体の腸内細菌群にどう影響されるかを調査している。

結果

研究では、SFB(セグメント細菌)によるコロニゼーションを受けた妊娠中のマウスは、MIA関連の異常を持つ子孫をより多く生産することが確認されている。これらの子孫は、社会性の低下、反復行動の増加、異常なコミュニケーションなどの異常な行動表現型を示している。MIAが引き起こされた妊娠中のマウスの血漿中のIL-17aのレベルが増加し、これが行動異常に関連していることが確認されている。

議論

腸内細菌群がMIAによる子孫の行動異常に直接的な影響を与えることが示されている。TH17細胞を誘導する細菌群が特に重要であり、これらは妊娠中の免疫系の活性化に関連していることが強調されている。この研究は、MIAが子孫に与える影響が、母体の免疫応答だけでなく、腸内細菌群にも依存していることを示している。

限界

研究はマウスを用いたモデルに基づいており、人間への直接的な適用には慎重なアプローチが必要である。免疫系や腸内細菌群の複雑な相互作用に関しては、さらなる研究が必要である。

可能な応用

この研究は、妊娠中の女性の腸内細菌群が子供の神経発達に影響を与える可能性があることを示唆している。妊娠中の女性の腸内細菌群を調整することによって、子供の神経発達障害のリスクを低減できる可能性がある。この研究は、妊娠中の母体の免疫応答と腸内細菌群が子孫の神経発達に与える影響についての理解を深めることができる。

図1. 母体の細菌がMIA子孫における神経発達障害に関連する異常行動を促進する
USV Index(超音波発声指数):グラフは、MIAに曝露された子孫が、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を投与された対照群と比較して、より高い超音波発声を示すことを示している。MIA群(Poly(I:C)処理群)と、バンコマイシン(Vanco.)で事前処理したMIA群を比較し、バンコマイシン処理によりUSVが低下することを示している。Marble Burying Index(マーブル埋め指数):MIAに曝露された子孫が、非曝露群に比べてより多くのマーブルを埋める傾向があることを示す。バンコマイシン処理により、この行動が軽減されることが示されている。Time Spent in Centre(中央部で過ごした時間): MIAに曝露された子孫が開放場所試験において中央部で過ごした時間が少なく、不安行動の増加を示唆している。
バンコマイシン処理がこれらの行動の変化を減少させることを示している。
Interaction Percentage(相互作用の割合): 社会的相互作用テストにおいて、MIA群が対照群に比べて他のマウスとの相互作用が少ないことを示している。バンコマイシン処理が社会的相互作用を増加させる効果があることを示唆している。
Representative Images of Brain(脳の代表的な画像):MIAによって引き起こされた脳の異常(cortical patch)を示す画像。バンコマイシン処理群では、これらの異常が見られないことが示されています。
Maternal Plasma Concentrations of IL-17a(母体血漿中のIL-17a濃度):MIA処理により母体のIL-17aレベルが増加することを示している。バンコマイシンによる前処理がIL-17aレベルを減少させることを示している。
この図は、MIAが子孫の行動異常と脳の発達異常に寄与し、これらの効果が母体の腸内細菌群、特にSFBに依存していることを示しています。また、バンコマイシンによる処理がこれらの異常を軽減することから、母体の腸内細菌群がMIA関連の行動と神経発達の異常に重要な役割を果たしていることが示唆されている。この発見は、母体の腸内環境が胎児の脳の発達に影響を及ぼす可能性を示している。

*本ページには、paper interpreterを使用しました。

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