第271回つくばブレインサイエンス・セミナーが開催されます

下記の日程で、つくばブレインサイエンスセミナーが開催されます。

第271回つくばブレインサイエンス・セミナー (2022年11月開催) 

2022年11月22日(火)午後6時からオンサイト講演予定

演題『統合失調症の解明を夢見て ― 心はどこまで脳だったのだろうか』

演者:糸川昌成(Masanari Itokawa)先生(東京都医学総合研究所

要旨 統合失調症は19世紀末にドイツの精神医学者クレペリンが疾患概念を提案しました。以来100年以上、世界の科学者が原因解明に取り組んできましたが、「研究者の墓場(Plum 1972)」と呼ばれるほど、いまだ決定的な原因は突き止められていません。
 私も1990年から1993年まで、筑波大遺伝医学教室(濱口秀夫教授)で有波忠雄先生に御指導いただき、統合失調症のドーパミンD2受容体遺伝子を解析しました。D2受容体は抗幻覚薬が作用する部位だったので(ドーパミン仮説)、世界中がD2受容体の遺伝子変異を探していた時代です。私たちは初めて多型(Ser311Cys)を同定し統合失調症と有意に関連することを見出しました。CHO細胞に安定発現させた311Cys型D2受容体は野生型(311Ser)受容体より有意に細胞内移行が低下したので、脱感受性の低下がドーパミンシグナルを亢進させ幻覚を生じるのだろうと推定しました。
 クレペリンは、統合失調症概念を提唱したとき、何らかの代謝障害と神経病理変化を予測していたと言われます。私たちは多発家系の発端者からカルボニルストレスの解毒酵素(glyoxalase1)の活性を半減させる変異を同定し、基質である終末糖化産物が蓄積していることを見出しました。これをきっかけに一般症例の4割でも終末糖化産物が蓄積していること、それら症例では認知機能障害が認められること、glyoxalase1のノックアウトマウスは環境負荷(ビタミンB6欠乏)で社会行動性障害を示すこと、SPring-8による死後脳の解析で神経突起の形状に変化を認めるといった成果を得ました。これらはクレペリンが予測した代謝障害と神経病理変化を支持する結果と考えます。
 当日は、こうしたミクロの所見で幻覚や妄想といった統合失調症の表現型を説明しようとするとき、認知症のタウやてんかんのチャネル遺伝子変異のようにうまくいかない理由について心と脳の関係から考察したいと思います。 

「統合失調症という問い」 古茶 大樹 (編集), 糸川 昌成 (編集), 村井 俊哉 (編集) 

「脳と心の考古学—統合失調症とは何だろうか」糸川 昌成 (著) 

    

                       

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください