主任教授よりご挨拶

  2015年年7月1日付けで,筑波大学医学医療系解剖学・神経科学教授を拝命し,久野節二前教授の後任として筑波大学で解剖学を担当することになりました.もともと私は高校生の時から人間の精神や行動について,特にその基本パターンをどのように変革していけばよいのかといったことに関心があり,その方向性を職業として生かしたいという考えから,精神科医になるつもりで医師を目指しました.途中神経系の臨床に興味を持ち,神経内科などいろいろ迷いましたが,やはり大脳を中心に勉強したいということで,東京大学を平成2年に卒業後,東京大学附属病院の精神神経科に入局しました.

  研修を終えた後に,精神神経疾患モデル動物の作製と,超微形態学を学ぶために,平成4年から東京大学医学部解剖学教室の廣川信隆先生の研究室で大学院生として博士課程の研究を始めました.当時から廣川研究室は,学内学外から多くの研究者が集まり,常時40名を超えるメンバーが在籍していました.私はシナプス関連蛋白(シナプシン1)微小管関連蛋白(MAPIB)のノックアウトマウスをつくり解析をするというプロジェクトを始め,先輩方に実験を教わりながら研究をすすめることになりました.全くの素人だった当時の私に懇切に指導してくださった廣川先生をはじめスタッフの先生方に深く感謝しています.ここ数年は受容体輸送機構と記憶・学習を中心に研究を行ってきましたが,受容体輸送がどのようにシナプスの機能を制御し,脳機能の基盤として働いているのか,まだほんの一端が明らかになったに過ぎません.これまで廣川研究室では微小管をレールにした輸送の研究に関わってきましたが,受容体輸送に関してはアクチン依存性のメカニズムが意外とわかっていません.そこで今後,筑波大学の研究室では,今までやってきた微小管関連蛋白MAPsに加え,アクチンをレールとして働くミオシン関連蛋白の機能を,神経細胞の活動依存的な可塑的変化の中で捉え,記憶・学習等の脳機能の中での役割を明らかにすることを考えています.このようなアプローチと並行して,精神神経疾患を『可塑性の病』と捉える立場で精神神経疾患モデル動物の開発に取り組みます.このような考え方は毫先生が四十年以上前に著書の中で予言的に述べられていたものです、以上のように,シナプスの正常と異常とを行き来しながら楽しんで研究を進めていきたいと考えていますが,同時に研究の楽しさの一端を若い人と共有することができれば望外の喜びです.

  東京大学では毎年マクロ解剖,神経解剖,骨学,組織学など解剖学全般を教え,当時の同僚らと協力して実習を行いながら,教え方や教材の改善に取り組みました.筑波大学では,肉眼解剖実習,神経解剖実習等を中心に担当しますが,教育に関しては自分自身まだまだ発展途上であり,よりよい実習講義を提供できるように今後も努力を重ねる所存です.医学部に進学したばかりの学生を教育するということは,新たな刺激を受けるという意味でも,解剖学者にのみ可能な社会貢献をするという意味でもたいへん貴重な機会です.今後もぜひ考えを同じくする方々と一緒に仕事をしたいものと考えております.筑波白菊会の会員様及び御家族様の御理解と御協力のもと,毎年充実した解剖実習が行われています.近年の学生数増加や国際化への対応など,取り組むべき問題は多々ありますが,筑波大学解剖学の伝統と強みを生かしながら時代の要請に応える解剖実習を目指して参りたいと考えています.

  よろしく御指導、御支援を賜りますようお願いいたします。

                            武井 陽介

筑波大学教授就任にあたってー自己紹介と研究ー武井 陽介
解剖学雑誌/91/pp.19-20, 2016-03を一部改変して掲載

Genetic research and Biotech science Concept. Human Biology technology on abstract digital background.

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