去った人の背に、何を負わせたのか

「問題のある人」が職場を去ると、空気が軽くなることがあります。ところが、しばらくすると別の誰かへの批判が始まる。その人さえいなければ、という言葉が繰り返されるとき、目を向けるべきなのは、個人の性格だけではないのかもしれません。

組織研究には、集団の問題や不満を特定の人物に集中させる「スケープゴート化」という概念があります(「組織におけるスケープゴート化(organizational scapegoating)」)。フランスの大企業で七つの事例を調べた研究では、対象者の孤立や排除は、本人の対応だけでなく、管理者が誰を支持するかによって異なる経過をたどりました。排除は自然に進むものではなく、周囲の対応によって強まりもすれば、抑えられもするのです。

では、なぜ集団は問題の原因を一人に求めるのでしょうか。社会心理学の実験研究は、二つの動機を示しています。一つは、自分たちにも責任があるという罪悪感を軽くすること。もう一つは、原因のわからない状況に説明を与え、対処できる感覚を取り戻すことです。「あの人のせいだ」という説明は、複雑な事情を調べ直すよりも、受け入れやすい場合があります。ただし、これらは職場で標的が交代する過程を直接検証した実験ではありません。

職場いじめをジラールの理論から捉えた研究では、集団内の対立が一人への攻撃に集約されることで、人々が一時的にまとまると考えます。この見方に立てば、誰かの退職によって得られた平穏も、対立の原因が残る限り、長続きしない可能性があります。ただし、「退職すれば必ず次の標的が生まれる」という一般法則が実証されたわけではありません。

組織のあり方が関係することは、縦断研究からもうかがえます。ノルウェーの労働者一七七二人を二年間追跡した研究では、同僚間の葛藤がその後のいじめ被害の申告を予測し、管理者の放任的な姿勢がその関連を強めていました。対立への対応を避けることも、その後の経過に関わるのです。

もちろん、個人の問題行動への対応が必要な場面はあります。それでも、人物が替わるたびに同じ非難が繰り返されるなら、仕事の分担や判断基準、異論の扱い方を点検する余地があります。退職後も業務上の問題は残っていないか。具体的な行為への指摘が、人格全体の否定に変わっていないか。組織の改善は、誰かが去った瞬間の安堵だけでは測れません。その後、人々が問題をどのように話し合えるようになったかが問われます。

Djabi, M., & Sitte de Longueval, O. (2020). Scapegoating in the organization: Which regulation modes? M@n@gement, 23(2), 1–19. https://doi.org/10.37725/mgmt.v23i2.4871

Rothschild, Z. K., Landau, M. J., Sullivan, D., & Keefer, L. A. (2012). A dual-motive model of scapegoating: Displacing blame to reduce guilt or increase control. Journal of Personality and Social Psychology, 102(6), 1148–1163. https://doi.org/10.1037/a0027413

Faldetta, G., & Gervasi, D. (2024). Escaping the scapegoat trap: Using René Girard’s framework for workplace bullying. Journal of Business Ethics, 191, 269–283. https://doi.org/10.1007/s10551-023-05488-9

Ågotnes, K. W., Einarsen, S. V., Hetland, J., & Skogstad, A. (2018). The moderating effect of laissez-faire leadership on the relationship between co-worker conflicts and new cases of workplace bullying: A true prospective design. Human Resource Management Journal, 28(4), 555–568. https://doi.org/10.1111/1748-8583.12200

One of the group is under threat of dismissal. Victim of bullying and abuse in the workplace. Violation of employee rights. Search for a scapegoat. Investigation among the suspects.

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