第四脳室からのぞく「花籠」―ボホダレクの花籠
解剖学には、人体の形を花や樹木などにたとえた印象的な名称があります。ボホダレクの花籠も、その一つです。これは、第四脳室の脈絡叢が第四脳室外側口、いわゆるルシュカ孔を通り、小脳橋角槽へ突出した部分を指します。病変の名称ではなく、正常な解剖学的構造です。
第四脳室は、橋および延髄の背側と、小脳の腹側との間にある脳室です。内部は脳脊髄液で満たされ、正中口であるマジャンディ孔と、左右一対の外側口であるルシュカ孔を介してクモ膜下腔と交通しています。第四脳室は左右へ細く延びて外側陥凹を形成し、その先端にルシュカ孔があります。

脈絡叢は、毛細血管を含む細かな絨毛状の組織で、脳脊髄液の産生に重要な役割を担っています。第四脳室の脈絡叢を外側へたどると、外側陥凹を通ってルシュカ孔に達し、その一部が孔の外へ現れます。この房状に突出した部分が、花を盛った籠のように見えることから「花籠」と呼ばれるようになりました。
ルシュカ孔の外側には、小脳と橋との間に広がる小脳橋角槽があります。この領域の近くには、顔面神経、前庭蝸牛神経、舌咽神経、迷走神経などの脳神経や、前下小脳動脈、後下小脳動脈などの血管が走行しています。そのため、ボホダレクの花籠は、小脳橋角部や第四脳室周辺を扱う脳神経外科手術において、位置関係を把握するための目印となることがあります。
ボホダレクの花籠の大きさや突出の程度には個人差があります。また、脈絡叢に石灰化が生じると、頭部CTでルシュカ孔付近に高吸収域として確認される場合があります。左右に房状の石灰化が見える像は、ボホダレクの花籠サインと呼ばれることがあります。正常構造であることを知らないと、出血、血管病変、腫瘍などと誤認される可能性があるため、画像診断上も重要です。
名称は、19世紀に活躍したボヘミア出身の解剖学者ヴィンツェンツ・アレクサンダー・ボホダレクに由来します。横隔膜の後外側部に関連するボホダレク孔やボホダレク孔ヘルニアにも同じ人物の名が残されていますが、これらは脳にある花籠とは別の構造です。
第四脳室から外側陥凹へ進み、ルシュカ孔を越えて小脳橋角槽へ姿を現した脈絡叢の先端。これがボホダレクの花籠です。小さな構造の中に、脳脊髄液の通路、脈絡叢の形態、脳神経外科に関わる複雑な位置関係、そして古典解剖学の詩的な命名が凝縮されています。
The hidden story of the fourth ventricular choroid plexus: the flower basket of an old anatomist…

図1は、第四脳室脈絡叢の全体形態と、ボホダレクの花籠の位置を示しています。図1aでは、第四脳室脈絡叢が、正中線の左右に配置された一対の逆L字型構造として示されています。各構造は、正中線に沿う縦走部である内側部と、そこから外側へ延びる横走部である外側部からなります。内側部は小節部と扁桃部、外側部は脚部と片葉部に区分されます。内側部の末端はマジャンディ孔へ向かい、外側部の末端は左右のルシュカ孔を通って小脳橋角部へ突出します。図1bは、第四脳室の屋根を透明にして脈絡叢を上方から見た模式図です。中央の矢頭はマジャンディ孔、左右の矢印はルシュカ孔から突出した脈絡叢の終末部を示しています。この左右の突出部がボホダレクの花籠です。したがって、ボホダレクの花籠とは第四脳室脈絡叢全体ではなく、横走部の最外側端がルシュカ孔を越えて小脳橋角部へ出た部分を指します。