実験ノートは、実験の予定や記憶を記すためだけのものではなく、研究の過程を客観的に示す一次記録です。誰が、いつ、どのような試料や試薬を用い、どのような条件で操作を行い、どのような結果が得られたかを正確に記録することによって、実験の再現性と研究結果の信頼性が確保されます。
実際には行っていない実験操作を、実施したかのように記載することは認められません。文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」では、存在しないデータや研究結果等を作成する行為を「捏造」と定義しています。虚偽の操作記録が、進捗報告、学位論文、学会発表、研究論文などの根拠として用いられた場合には、研究不正に該当する可能性があります。
筑波大学研究公正規則においても、捏造、改ざん、盗用に加え、科学者の行動規範や社会通念に照らして、研究者倫理から著しく逸脱した行為を研究活動上の不正行為と定めています。また、大学院生を含む研究者等には、研究活動の正当性と第三者による検証可能性を確保するため、実験・観察記録ノートや実験データを適切に記録、保存、管理する責務があります。
日本学術振興会の研究倫理教材『科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得―』でも、実験ノートには、何を、なぜ、どのように、いつ行ったかを正確に記録し、結果や観察事項を可能な限り実験時点で記載することが求められています。さらに、第三者が研究の経過を追跡し、必要に応じて再現できる程度に詳しく記録すること、実際に観察した事実と考察や推測を明確に区別することが重要とされています。
実験ノートに虚偽の記載が含まれると、その部分だけでなく、同じノートに記録された他の実験やデータについても信頼性が疑われることになります。これは本人の研究成果だけでなく、共同研究者、指導教員、研究室、大学全体の信用にも影響を及ぼします。正確な記録を残すことは、研究者として最も基本的な責務の一つです。実験ノートの記載は、研究成果の信頼性を支える科学的証拠であることを十分に理解し、誠実に取り扱っていただきたいです。
参考文献
- 文部科学省『研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン』平成26年8月26日文部科学大臣決定。
- 国立大学法人筑波大学『筑波大学研究公正規則』。
- 筑波大学『筑波大学研究資料等の保存に関するガイドライン』。
- 日本学術振興会「科学の健全な発展のために」編集委員会編『科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得―』第2版、2025年。
