本日は、医学群医学類新医学主専攻の学生が研究進捗報告を行いました。医学類5年生が論文紹介を行いました。お二人とも、いつもながらしっかりとまとめられたプレゼンテーションでした。セミナー後に医学類5年生二人とスタッフMが一緒に実験の打ち合わせを行いました。頼りになるM5の学生の方にはもっと研究室に来てほしいです。スタッフは某実習で疲労しました…明日も一限から実習頑張ります。
Translational Psychiatry Published: 18 November 2025
Stress-induced brain extracellular vesicles ameliorate anxiety behavior (ストレス誘導性脳由来細胞外小胞は不安様行動を改善する)
Yusuke Mizohata et al. Department of Physiology, National Defense Medical College, Tokorozawa, Saitama, Japan
Abstract
細胞外小胞(extracellular vesicles: EVs)は、あらゆる種類の細胞から分泌されるナノサイズの小胞であり、血流を介して遠隔の細胞へ情報を運ぶコミュニケーションネットワークとして機能している。特に脳細胞は、神経機能の調節に重要な役割を果たすEVを分泌することが知られている。一方で、脳は急性ストレスを感知すると、ストレス耐性を高め恒常性を維持するための機構を活性化する。しかし、脳由来細胞外小胞(brain-derived extracellular vesicles: BDEVs)がストレス応答の調節にどのように関与するのかは明らかではなかった。
本研究では、急性ストレスによって誘導されたBDEVsをマウスに投与すると、不安関連行動が減少することを見出した。また、この効果は、急性ストレス誘導性BDEVsに含まれているわずか3種類のマイクロRNA(miR-199a-3p、miR-99b-3p、miR-140-5p)を投与することによっても再現された。さらに、miR-199a-3pは神経細胞においてMecp2の発現を抑制することにより、観察された抗不安作用に寄与している可能性が示唆された。
これらの結果は、BDEVsが急性ストレス条件下における精神活動の調節に関与している可能性を支持するとともに、その分子機構に関する予備的な知見を提供するものである。本研究は、不安関連疾患に対するEVあるいはmiRNAを利用した治療戦略の将来的な開発に向けた基盤を提供するものである。

Results
本研究では、急性ストレスによって脳由来細胞外小胞(BDEV)に含まれるmiRNAが変化し、それらが不安様行動を抑制するかを検証した。
まず研究者らは、1時間の拘束水浸ストレスを負荷したマウスから血清を採取し、BDEVを分離した。ストレス負荷群では視床下部の神経活動マーカーであるc-fos mRNA発現が有意に増加しており、急性ストレスが適切に誘導されたことが確認された。一方で、BDEVの量やBDEV内に含まれる総miRNA量には変化が認められず、急性ストレスはBDEVの分泌量ではなく内容物を変化させることが示唆された。
次に1900種類のmiRNAを対象としたマイクロアレイ解析を行ったところ、急性ストレスにより65種類のmiRNAが8倍以上変動していた。このうちヒトホモログを持つ26種類を詳細解析した結果、miR-199a-3p、miR-99b-3p、miR-140-5pの3種類がストレス群で有意に増加していた。
これらのBDEVが行動に与える影響を調べるため、ストレスマウス由来BDEVを別のマウスへ投与した。Open Field Testでは、ストレス由来BDEVを投与されたマウスで中央領域滞在時間が増加した。またElevated Plus Mazeでは、開放アームへの侵入回数および開放アーム内移動距離が増加した。総移動距離には差がなかったため、活動量増加ではなく不安様行動の軽減による変化と考えられた。さらに、BDEVを脳室内へ直接投与した場合にも同様の抗不安作用が認められ、BDEVが中枢神経系へ直接作用する可能性が示された。
続いて、増加した3種類のmiRNAの役割を検証するため、miRNAミミックを静脈投与したところ、3種類を混合投与した群ではElevated Plus Mazeで開放アーム侵入回数が有意に増加した。つまり、BDEVの抗不安作用の少なくとも一部はこれら3種類のmiRNAによって再現できた。
機序解析では、BDEVが神経細胞、アストロサイト、ミクログリアのいずれにも取り込まれることが確認された。RNA-seq解析では、3種類のmiRNA導入により神経細胞で167遺伝子、アストロサイトで86遺伝子、ミクログリアで44遺伝子の発現が低下した。特にmiR-199a-3pが最も強力な制御因子として同定され、恐怖・不安関連遺伝子解析からMecp2が主要標的として抽出された。さらに3’UTRレポーターアッセイにより、miR-199a-3pがMecp2の3’UTR上の285–292塩基領域へ直接結合して発現を抑制することが実証された。
以上より、本研究は「急性ストレスにより増加したBDEV中のmiR-199a-3p、miR-99b-3p、miR-140-5pが脳内で作用し、不安様行動を軽減する」ことを示した。特にmiR-199a-3pによるMecp2抑制が重要な分子機構である可能性が示された。
Discussion
本研究の最大の意義は、急性ストレスによって放出される脳由来細胞外小胞(BDEV)が、不安を増強するのではなく、むしろ不安様行動を抑制する方向に働く可能性を示した点にある。従来、ストレスやうつ病患者由来の血中EVは抑うつや不安を悪化させる因子として報告されてきたが、それらの多くは慢性ストレスやうつ病状態を対象としていた。本研究は急性ストレス直後という早期段階に注目し、ストレス応答の初期には脳が適応・回復を促進するシグナルを放出している可能性を提唱している。
著者らは、急性ストレスによって増加したBDEV内miRNAとしてmiR-199a-3p、miR-99b-3p、miR-140-5pの3種類を同定した。これらのmiRNAは過去のストレス研究で報告されてきたmiR-132、miR-124、miR-135aなどとは異なっており、BDEV特有のストレス応答経路を反映している可能性があると考察している。また、BDEVは脳内のどの領域から分泌されたかは特定できていないため、これまで研究されてきた扁桃体や海馬以外の脳領域が関与している可能性も指摘している。
機能解析では、3種類のmiRNAのうち特にmiR-199a-3pが重要な役割を担うことが示唆された。RNA-seq解析やTargetScan解析、IPA解析の結果から、miR-199a-3pは神経細胞、アストロサイト、ミクログリアのいずれにおいても最も強力な上流制御因子であった。さらに神経細胞では、不安や恐怖行動に関連する遺伝子としてMecp2が抽出され、レポーターアッセイによりmiR-199a-3pがMecp2 mRNAへ直接結合して発現を抑制することが確認された。Mecp2過剰発現動物では不安行動が増加し、Mecp2機能低下では不安が減少することが既に報告されているため、本研究の結果は既存知見とも整合する。
さらに著者らは、miR-199a-3pによるPI3K/Akt/mTOR経路の抑制も抗不安作用に寄与する可能性を議論している。mTOR経路の過剰活性化は自閉スペクトラム症や不安関連表現型と関連しており、mTOR阻害によって不安行動が改善することが報告されている。したがって、BDEVによって運ばれたmiR-199a-3pがMecp2抑制とmTOR経路抑制の両面から抗不安作用を発揮している可能性が考えられる。
一方で、miR-199a-3p単独投与では有意な行動変化が認められなかったため、miR-99b-3pやmiR-140-5pとの協調作用も重要であると著者らは考察している。また、アストロサイトやミクログリアについては直接標的遺伝子が十分には特定されておらず、神経伝達物質の取り込みやEVの除去などを介して間接的に抗不安作用へ寄与している可能性が示唆されている。
著者らは、「急性ストレス → miR-199a-3p豊富なBDEV分泌 → 神経細胞への取り込み → Mecp2抑制 → 不安軽減」という新たなストレス適応機構を提案している。このBDEV-miRNA経路は、脳が急性ストレスに対して自ら回復力(resilience)を高める生理的システムの一部である可能性があり、将来的な不安障害治療やEV・miRNA創薬の基盤になると結論付けている。








