炎症のゆりかごで育つ孤独

Translational Psychiatry, 2022年 Volume 12, Article number 384。2022年9月14日公開

Maternal immune activation induces autism-like changes in behavior, neuroinflammatory profile and gut microbiota in mouse offspring of both sexes
母体免疫活性化は、雌雄両方のマウス仔に自閉症様の行動変化・神経炎症プロファイル・腸内細菌叢変化を誘導する

Anna Maria Tartaglione and Gemma Calamandrei

Centre for Behavioral Sciences and Mental Health, Italian National Institute of Health (ISS), Rome, Italy

Abstract

自閉スペクトラム症(ASD)は、神経炎症および腸内細菌叢異常と関連する神経発達障害である。母体免疫活性化(MIA)はASD発症の危険因子であり、妊娠中の感染症への曝露はASD発症リスクを高めることが示されている。しかし、MIAが誘導するASD様表現型の根底にある機構については、依然として十分に解明されていない。本研究では、妊娠12.5日目のマウスにpolyinosinic:polycytidylic acid(Poly I:C)を投与することでMIAモデルを作製し、その仔マウスにおけるASD様行動、神経炎症プロファイル、および腸内細菌叢変化を、雌雄別に評価した。その結果、MIA仔マウスでは、雌雄ともに社会性低下、反復・固執的行動、プレパルス抑制障害などのASD様行動異常が認められた。さらに、神経炎症関連マーカーの変化が海馬および小脳で観察され、特に小脳では顕著な性差が認められた。また、MIA仔では腸内細菌叢組成の変化が認められ、その変化パターンはASD患者で報告されている特徴と一致していた。以上より、本研究は、MIAがASD様行動異常、神経炎症、および腸内細菌叢異常を誘導することを示し、これらの変化がASD病態形成に関与する可能性を示唆している。

Results

母体免疫活性化(MIA)を受けた仔マウスでは、雌雄ともに自閉スペクトラム症(ASD)様の行動異常が認められた。まずOpen Field試験およびElevated Plus Maze試験では、総移動距離や不安様行動に有意な差は認められず、一般的な運動能力や基礎的不安には大きな影響がないことが示された。一方、Three-chamber social testでは社会刺激への選好性が低下していた。Vehicle群では他個体への探索時間が物体探索より有意に長かったのに対し、Poly I:C群では物体探索時間が増加し、社会刺激への興味低下が示唆された。また、T-maze試験では自発的交替率が低下しており、反復的・固執的行動傾向が認められた。さらに、Acoustic Startle Response/Prepulse Inhibition(PPI)試験ではPPI低下が観察され、感覚運動ゲーティング障害が示された。これらの行動異常は雄だけでなく雌でも認められた点が特徴である。

神経炎症解析では、離乳期(postnatal day 28: pnd 28)と成体期(pnd 120)の海馬および小脳における炎症関連遺伝子発現が解析された。海馬では、pnd 28時点で雌特異的にTNF-α、IL-6、iNOS発現が上昇し、炎症性反応の亢進が認められた。一方、Arg-1は雌雄両方で上昇し、BDNFは低下していた。成体期では、Arg-1が雌雄ともに低下したが、その他の炎症マーカー変化は限定的であった。

小脳ではより顕著な変化が認められた。pnd 28では、雌でTREM2、CD68、GFAP発現が有意に上昇し、ミクログリア・アストロサイト活性化が示唆された。またTNF-αは雌雄両方で増加した。成体期でもTNF-αおよびIL-6上昇が持続しており、小脳炎症が長期間残存する可能性が示された。特に小脳における変化は海馬より強く、かつ性差が明瞭であった。

腸内細菌叢解析では、pnd 28時点でMIA仔に特徴的な細菌組成変化が認められた。主要門はFirmicutesとBacteroidetesであったが、Poly I:C群ではBacteroidetes比率が増加し、Firmicutes/Bacteroidetesバランスが変化していた。またVerrucomicrobiaおよびTenericutesは減少していた。これらの変化はASD患者で報告される腸内細菌叢異常と類似していた。さらに、細菌群と行動指標との間には相関も認められ、腸内環境変化とASD様症状との関連が示唆された。以上より、MIAは雌雄両方の仔にASD様行動異常を引き起こし、その背景には神経炎症および腸内細菌叢異常が関与する可能性が示された。特に小脳炎症と性差が本研究の重要な発見である。

Figure 5では、母体免疫活性化(MIA)を受けた仔マウスの小脳における神経炎症関連遺伝子の変化が解析されている。解析は離乳期に相当するpostnatal day 28(pnd 28)と成体期のpnd 120で行われ、Vehicle群とPoly I:C群が比較された。結果として、MIAによって小脳に炎症性変化が誘導されること、さらにその変化に性差が存在することが示された。
まずpnd 28では、炎症性サイトカインであるTNF-αが雌雄両方で上昇していた。一方で、ミクログリアおよびアストロサイト活性化に関連するCD68、TREM2、GFAPは主に雌で有意に増加していた。CD68は活性化ミクログリアの指標、TREM2はミクログリアの貪食・活性化関連分子、GFAPはアストロサイト活性化マーカーであり、これらの増加は雌でより強い神経免疫応答が起きていることを示唆している。つまり、MIAによる小脳炎症は単なるサイトカイン増加だけでなく、グリア細胞活性化を伴う反応であり、その程度には性差が存在することが明らかになった。
さらに成体期であるpnd 120でも、TNF-αやIL-6の上昇が雌雄両方で認められた。これは、胎生期の母体免疫刺激によって誘導された炎症状態が、発達初期だけでなく成体期まで長期間持続することを示している。一方で、pnd 28で顕著だったCD68やTREM2、GFAPなどの急性的なグリア活性化マーカーは成体期ではそれほど顕著ではなく、炎症状態が慢性化している可能性が示唆された。
著者らは、この小脳炎症がASD様行動異常に関与する可能性を考察している。近年、小脳は単なる運動制御領域ではなく、社会性、認知、感覚情報統合にも重要であることが知られている。そのため、MIAによる持続的な小脳炎症が、社会性低下や感覚運動ゲーティング障害などのASD様表現型形成に寄与している可能性がある。特に、本図で示された雌における強いグリア反応は、ASD病態における性差理解にも重要な知見となっている。

Discussion

本研究は、母体免疫活性化(MIA)が仔マウスに自閉スペクトラム症(ASD)様の行動異常を誘導し、その背景に神経炎症および腸内細菌叢異常が関与する可能性を示した。特に重要なのは、これらの変化が雄だけでなく雌にも認められた点であり、ASD研究でしばしば見落とされてきた性差の重要性を強調している。

行動解析では、社会性低下、反復的行動、感覚運動ゲーティング障害が認められ、これはASD患者で観察される特徴と一致していた。一方で、不安様行動や一般運動機能には大きな異常がなく、MIAの影響が特定の神経機能に比較的選択的である可能性が示唆された。

神経炎症解析では、海馬よりも小脳で顕著な炎症変化が認められた。特に雌では、小脳においてTREM2、CD68、GFAPなどのミクログリア・アストロサイト関連マーカーが上昇しており、グリア活性化の性差が示唆された。著者らは、小脳がASD病態形成に重要な役割を持つ可能性を指摘している。実際、近年のASD研究では、小脳異常が社会性や認知機能障害に関与することが報告されている。また、炎症性サイトカインの変化が成体期まで持続していたことから、MIAによる免疫異常が長期的な脳機能変化につながる可能性も示された。

さらに、腸内細菌叢解析では、MIA仔でBacteroidetes増加やVerrucomicrobia減少など、ASD患者と類似した変化が認められた。これらの結果は、母体免疫異常が出生後の腸内環境形成にも影響し、その後の脳発達や行動異常に関与する可能性を支持している。著者らは、腸内細菌叢―免疫系―脳の相互作用(gut–brain axis)がASD病態の形成に重要であると考察している。

一方で、本研究は相関的解析であり、腸内細菌叢異常や神経炎症が直接行動異常を引き起こしたことを証明したわけではない。また、解析対象が限られた脳領域と遺伝子群にとどまる点も限界として挙げられている。それでも本研究は、MIAモデルにおける性差、小脳炎症、腸内細菌叢変化を統合的に示した点で重要な知見を提供している。

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