三月下旬になると、私はいつも、季節がそっと肩をたたいてくるような気がします。ついこの前まで、朝の空気には冬の名残が濃く残っていたのに、気がつけば日差しのやわらかさがそれを包み込み、街全体の色合いまで少し明るく見えてきます。春は音もなく近づいてくるものだと、毎年この頃になると思います。
道を歩けば、花壇の草花が少しずつ勢いを増し、木の枝先には小さな蕾がふくらんでいます。その変化はとても控えめで、急いでいると見落としてしまいそうです。けれど、立ち止まって眺めてみると、そこには確かに季節の歩みがあります。三月下旬とは、満開の春が姿を現す直前の、いわば助走の時間なのだと思います。
この時期には、景色だけでなく、人の暮らしにも独特の揺れがあります。卒業や異動、別れや新しい出会いの準備が重なり、どこか落ち着かない気持ちになります。終わるものへの寂しさと、始まるものへの期待とが、同時に胸の中にあるからです。はっきり笑うことも、思いきり泣くこともできないまま、心だけが静かに揺れているような日が続きます。
夕方の光にも、この季節らしい味わいがあります。西日を受けた街並みはやわらかく、見慣れた道さえ少し懐かしく感じられます。ふと風にのって花の香りが届くと、それだけで昔の記憶がよみがえります。教室のざわめきや、年度末のあわただしさ、誰かと交わした何気ない言葉まで、春先の空気に溶けるように戻ってきます。
三月下旬は、何か特別な出来事がなくても、心を深く動かす季節です。目の前の景色は静かに変わり、人の気持ちもまた、その変化に呼応するように揺れていきます。すべてが決まりきる前の、少し不安で、けれどたしかに明るいこの時期に、季節のやさしさが最もよく表れているように思います。
本日は、来年度から参加する予定の学生が研究室に来てくれました。年度が替わると怒涛の毎日が待っているので、今のうちにコツコツ下準備を進めておきたいです。





