冷たいみぞれがつくばを包み込んでいます。ラボセミナーでは医学類5年生が研究進捗報告を、スタッフMが下記の論文紹介を行いました。
Nature, 2026 Published: 07 January 2026
Mitochondrial transfer from glia to neurons protects against peripheral neuropathy グリアからニューロンへのミトコンドリア移送は末梢神経障害を防ぐ
Jing Xu et al. Center for Translational Pain Medicine, Department of Anesthesiology, Duke University Medical Center, Durham, NC, USA
Abstract
DRG感覚ニューロンは非常に長い軸索(ヒトでは最大100 cm)を持つため、大量のミトコンドリアを必要とする。しかし以下の点は不明だった。
- ニューロンがどのように十分なミトコンドリアを維持するのか
- 周囲のグリア細胞がミトコンドリア供給に関与するか
近年、細胞間ミトコンドリア移送(mitochondrial transfer)が報告されているが、in vivoでの証拠は限定的だった。本研究は、末梢神経節(DRG)の衛星グリア細胞(Satellite glial cells: SGCs)が感覚ニューロンへミトコンドリアを移送することを発見し、この移送が末梢神経障害や神経障害性疼痛からニューロンを保護することを示した。SGCsはtunnelling nanotubes (TNTs) を形成し、MYO10依存的にミトコンドリアをニューロンへ供給する。ミトコンドリア移送を阻害すると神経変性と疼痛が生じた。さらにヒトDRGでも同様の構造と機構が存在し、糖尿病患者ではMYO10発現とミトコンドリア移送が低下していた。健康なヒトSGCsまたはミトコンドリアをマウスDRGへ移植すると、神経障害性疼痛が改善した。
Results
本研究では、DRG(dorsal root ganglion)に存在する衛星グリア細胞(satellite glial cells: SGCs)から感覚ニューロンへのミトコンドリア移送の存在とその機能を検証した。まず、マウスDRG由来のSGCと感覚ニューロンを共培養し、SGCのミトコンドリアをMitoTrackerで標識したところ、ニューロン内部に同色のミトコンドリアシグナルが検出され、SGCからニューロンへのミトコンドリア移送が確認された。定量解析では、約83.3%のニューロンがSGC由来ミトコンドリアを受け取っており、さらに約31.3%のニューロンではSGCとニューロンを連結するtunneling nanotube(TNT)様構造が観察された。ライブイメージングでは、TNTが一過的に形成されて数十分以内に消失する動的構造であることも確認された。また、ナトリウムチャネル阻害剤tetrodotoxinによる神経活動抑制によりミトコンドリア移送が低下したことから、この移送は神経活動依存的である可能性が示された。さらに、TNT形成阻害剤(Cytochalasin B)、エンドサイトーシス阻害剤(Pitstop2)、ギャップ結合阻害剤(CBX)のいずれもミトコンドリア移送を抑制したことから、TNT形成、エンドサイトーシス、ギャップ結合が複合的に関与することが示唆された。
電子顕微鏡解析では、マウスおよびヒトDRGにおいてSGCとニューロンを結ぶTNT様構造が確認され、その内部にミトコンドリアや小胞が存在することが示された。さらに、in vivoでのミトコンドリア移送を検証するため、SGC特異的にミトコンドリアを標識するMitoTagマウスを用いた解析を行った。その結果、タモキシフェン投与後5日では2.9%のニューロン、10日では23.0%のニューロンにSGC由来ミトコンドリアシグナルが検出され、時間依存的にミトコンドリア移送が増加することが示された。また、神経損傷モデル(spared nerve injury)ではミトコンドリア移送が増加し、神経ブロックにより抑制されたことから、この移送は神経活動と関連することが示された。
さらに、TNT形成に関与する分子としてMYO10に注目した解析では、MYO10がSGCに高発現しており、siRNAによるMyo10ノックダウンによりTNT形成、ミトコンドリア移送ともに顕著に低下した。また、Myo10ヘテロ欠損マウスでは機械刺激および熱刺激に対する過敏反応が認められ、TNT構造も減少していた。
ヒトDRGの解析では、単一核RNAシーケンスによりSGCがDRG細胞の約31.1%を占める最大の細胞集団であることが確認され、MYO10がニューロンよりもSGCで高発現していることが示された。糖尿病患者由来DRGではMYO10発現が低下しており、SGCからニューロンへのミトコンドリア移送も低下していた。さらに、健康なヒトSGCまたはSGC由来ミトコンドリアをマウスDRGへ移植すると神経障害性疼痛が改善し、逆にミトコンドリア機能が低下したSGCではこの効果が消失した。これらの結果から、SGCからニューロンへのミトコンドリア移送が神経機能維持および神経障害性疼痛の制御に重要な役割を果たすことが示された。

ミトコンドリア機能回復の機能的影響。健常なSGCの養子輸送、またはSGC由来ミトコンドリアのDRGへの直接送達は、ニューロンのミトコンドリア機能を改善し、生体内での疼痛過敏症を軽減する。一方、MYO10依存性TNT形成の阻害、または代謝が低下したミトコンドリアの輸送は、これらの効果を阻害する。
Discussion
本研究は、DRGにおいて衛星グリア細胞(SGCs)が隣接する感覚ニューロンへミトコンドリアを供給するという新しい神経―グリア相互作用の機構を明らかにした。これまでミトコンドリアは基本的に各細胞内で独立して維持されると考えられてきたが、近年いくつかの細胞間ミトコンドリア移送の例が報告されている。しかし、末梢神経系においてグリア細胞からニューロンへのミトコンドリア供給がin vivoで確認された例は限られており、本研究はその直接的な証拠を示した点で重要である。
本研究では、SGCとニューロンを結ぶTNT様構造が電子顕微鏡レベルで確認され、その内部にミトコンドリアが存在することが示された。また、TNT形成に関与するモータータンパク質MYO10がSGCに特異的に高発現しており、MYO10の抑制によりミトコンドリア移送が低下することが明らかになった。これらの結果は、MYO10依存的なTNT形成がSGCからニューロンへのミトコンドリア輸送の主要経路であることを示唆している。一方で、エンドサイトーシスやギャップ結合の阻害でもミトコンドリア移送が低下したことから、複数の輸送経路が協調して働いている可能性も考えられる。
機能的観点からは、SGC由来ミトコンドリアがニューロンの酸化ストレスを低減し、神経活動の過剰亢進を抑制することが示された。化学療法薬パクリタキセルによる神経障害モデルでは、SGC機能の低下とミトコンドリア移送の障害が神経変性や疼痛に関与することが示唆された。また、糖尿病患者のDRGではMYO10発現とミトコンドリア移送が低下しており、SGC―ニューロン間相互作用の破綻が糖尿病性末梢神経障害の一因である可能性が示された。
さらに、本研究は治療応用の可能性も提示している。健康なSGCまたはSGC由来ミトコンドリアをDRGへ移植すると神経障害性疼痛が改善したことから、ミトコンドリア補充療法が新たな治療戦略となる可能性がある。特に、ミトコンドリア機能障害が関与する化学療法誘発性神経障害や糖尿病性神経障害に対して有望なアプローチと考えられる。
https://www.nature.com/articles/s41422-026-01230-y





