むかしをいまに

「むかしをいまに なすよしもがな」という一句は、古典和歌的語法によって、失われた過去を現在に回復したいという切実な願いを簡潔に表現した言葉です。語句を分解すると、「むかし」は単なる時間的過去ではなく、価値づけられた往時を指します。「いま」はそれが欠落した現在を示し、「なす」は実現・再構成を意味します。「よし」はそのための手立て、方法を表します。そして終助詞「もがな」は、強い願望でありながら、それが叶い難いことを前提とした嘆きを含んでいます。したがって全体としては、「昔のあの時を、今の世に実現する方法があればよいのに」という、抑制された哀切を帯びた願いを表しています。

静御前は義経没落後、鎌倉という権力の中枢で舞を命じられました(しづやしづ しずのおだまきくりかえし むかしをいまに なすよしもがな)。その場で示された心情は、単なる私的な恋慕にとどまるものではなく、義経と共にあった過去の価値――愛、忠誠、美――を、現在においても成立させたいという願いであったと考えられます。この文脈における「むかし」は幸福な記憶であると同時に、すでに回復不能な時間であり、「いま」はその喪失を抱え込んだ現実を意味しています。過去に戻りたいという願望ではなく、過去が持っていた意味や価値を、現在において再び有効なものとしたいという倫理的・美学的要求が込められています。実現不可能であると知りながらも、なお願わずにはいられない姿勢そのものが、この言葉の核心なのでしょう。

文学史的に見ますと、この表現は、歴史の勝者ではなく、周縁に置かれた者の声を、和歌という洗練された形式で歴史に刻み込む役割を果たしてきました。静御前の物語が平家物語や吾妻鏡を通じて語り継がれてきたのも、その象徴的な意義によるものです。「むかしをいまに なすよしもがな」は、過去と現在の断絶を静かに嘆きつつ、なお価値の回復を志向する、日本的時間意識を端的に示す一句であると言えるのかもしれません。

週末は、大規模な試験がありました。本日は、医療科学類4年生が論文紹介を、医学類M4の学生が研究進捗報告を行いました。臨床実習中も継続して研究室に来てくださってありがとうございます!来年度の講義や実習の計画、学位論文審査会など目白押しで気ぜわしい日々です。「むかしをいまに なすよしもがな」と感じることも多いですが、未来志向的に活動することを意識したいと感じる一日でした。

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