自己と非自己を同時に読む

ロルフ・M・ジンカーナーゲル(Rolf M. Zinkernagel, 1944–)は、現代免疫学の根幹概念である「MHC拘束性(MHC restriction)」を確立した研究者であり、その業績は細胞性免疫の理解を決定的に変えました。MHC拘束性とは、細胞傷害性T細胞(CTL)がウイルス感染細胞などを認識する際、外来抗原そのものだけでなく「自己の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)」に結合した形で提示されていることを必須条件とするという原理です。この概念は、「免疫は非自己を識別する」という従来の単純な図式を刷新し、免疫応答が自己の枠組みの中で非自己を判断する高度に制御されたシステムであることを示しました。

ジンカーナーゲルは、ピーター・ドハティ(Peter C. Doherty)とともに、マウスのウイルス感染モデルを用いた研究からこの原理を導きました。彼らは、あるマウス系統で誘導されたCTLが、同一のウイルスに感染していてもMHC型の異なるマウスの細胞を攻撃できないことを示しました。すなわち、T細胞受容体(TCR)は抗原ペプチド単独を認識しているのではなく、抗原ペプチドと自己MHC分子の複合体を一体として認識している、という画期的な結論に到達しました。

この発見は、免疫学のみならず医学全体に広範な影響を及ぼしました。第一に、移植免疫の理論的基盤を明確にし、なぜMHCの不一致が強い拒絶反応を引き起こすのかを分子レベルで説明可能にしました。第二に、ウイルス感染症やがん免疫の理解を飛躍的に進め、CTLがどのように感染細胞や腫瘍細胞を特異的に排除するのかという機構解明につながりました。さらに、自己免疫疾患の病態理解においても、自己MHCを介した抗原提示とT細胞活性化の破綻という視点を提供しました。

その後の研究により、MHC拘束性は胸腺における正の選択・負の選択というT細胞分化機構とも深く結びつき、免疫寛容や自己非自己識別の発生学的基盤として位置づけられています。これら一連の成果により、ジンカーナーゲルとドハティは1996年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。1月6日に生まれた彼の業績は、免疫学を経験科学から精緻な分子認識の学問へと昇華させた転換点として、免疫研究と臨床医学の中心に据えられています。

本日も寒い中、学生たちが実験と研究室内の作業を頑張ってくれました。臨床実習から馳せ参じたM4の方はフリーザーの霜取りもやってくれました。疲れている中、ありがとうございました!

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