Le fantôme de la nuit sacrée

クリスマス・イブですが、冷たい雨が降っています。夜更け過ぎに、雪⛄に変わるかどうかは不明です。学類生は、まだ試験期間中なので気を抜けない状態と思います。M2の学生は、神経系の試験が控えています。

Joseph Lister(1827年12月25日生)は、近代外科および感染制御の基盤を確立した外科医です。その業績は、医学史全体における大きな転換点として位置づけられています。19世紀半ばまでの外科医療では、手術そのものよりも術後感染が最大の脅威であり、化膿、敗血症、壊疽によって患者の30~50%が死亡することも珍しくありませんでした。当時は瘴気説が広く信じられており、感染は空気の質や体質に由来するものと考えられ、医師が積極的に制御できる現象とは見なされていませんでした。

リスターは、顕微鏡光学の改良で知られる父の影響を受け、幼少期から観察と実証を重んじる科学的態度を身につけました。ロンドン大学で医学を修め、外科医として臨床に従事する中で、術後感染が体系的に説明できないことに強い疑問を抱くようになります。転機となったのは、ルイ・パスツールが提唱した微生物説でした。リスターは、創部感染は微生物の侵入によって引き起こされるという仮説を立て、これを外科の現場で検証しようと試みました。

彼が導入したのが、石炭酸(フェノール)を用いた消毒法です。創部の洗浄、手術器具や縫合糸、包帯の消毒を徹底し、当初は空気中への石炭酸噴霧も行いました。その結果、とくに開放骨折における死亡率は劇的に低下し、外科医療の安全性は飛躍的に向上しました。リスターの方法は、刺激性や手技の煩雑さを理由に当初は批判も受けましたが、明確な臨床成績の改善により、やがて抗菌的外科(antiseptic surgery)として広く受け入れられるようになりました。リスターは症例を体系的に比較し、仮説と結果の対応を重視する姿勢を一貫して貫きました。この態度は、外科を職人的経験則の世界から、再現性と検証可能性を備えた科学的医療へと変革した点で画期的です。この方法論は、後の臨床試験やエビデンスベースドメディシンの思想的前史として評価されています。

感染制御の確立は神経科学および精神医学の発展にも深く関与しています。脳や脊髄を対象とする手術は、感染が致死的であった時代には成立し得ませんでしたが、リスター法の普及によって開頭術や脊髄手術が現実的な治療選択肢となりました。これは、皮質局在論の検証、脳腫瘍摘出、てんかん外科の発展を支える重要な前提条件です。また、衛生概念の普及は精神科病棟の医療環境を改善し、精神疾患を身体疾患と同様に科学的対象として扱う流れを後押ししました。

晩年、リスターは英国王立協会会長や貴族院議員を務め、医学者としては異例の社会的評価を受けました。彼の名は研究機関や賞に残り、今日の無菌操作や実験医学の基礎に受け継がれています。12月25日という象徴的な日に生まれたリスターは、感染を「不可避の運命」から「制御可能な生物学的現象」へと転換させ、近代医学の再生を体現した人物です。

*口腔消毒薬のリステリンもJoseph Listerを記念しての商標です。

Lister J.
On the Antiseptic Principle in the Practice of Surgery.
The Lancet. 1867;90(2299):353–356.

Worboys M.
Joseph Lister and the Performance of Antiseptic Surgery.
Notes and Records of the Royal Society. 2013;67(3):199–214.
DOI:10.1098/rsnr.2013.0026

Porter R.
The Greatest Benefit to Mankind: A Medical History of Humanity.
London: HarperCollins; 1997.

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