ノーベル賞が毎年12月10日に授与されるのは、発明家アルフレッド・ノーベルが1896年12月10日に亡くなった日を記念するためです。1901年の第1回授賞式以来、生理学・医学賞を含む主要部門の授与式はストックホルムで、平和賞のみはノルウェーのオスロで行われています。特に生理学・医学賞は、スウェーデンのカロリンスカ研究所に設置された Nobel Assembly によって選考され、その決定は生命科学の方向性を象徴するものとして世界的な注目を集めてきました。
12月10日の授賞式は、ストックホルム・コンサートホールで国王臨席のもと厳かに執り行われます。選考委員によるスピーチ、受賞者の紹介、賞状とメダルの授与が続き、これは科学と文化への貢献を祝福する象徴的な儀式となっています。夜にはストックホルム市庁舎でノーベル・バンケットが開かれ、医学賞受賞者を含む各分野の受賞者がスピーチを行います。こうした一連の行事は、ノーベル財団が「魔法のような日」と呼ぶ独特の華やかさと歴史性を持ち、世界中の研究者がこの日に向けて研鑽を積み重ねる理由にもなっています。
生理学・医学賞の歴史は、医学の進歩そのものと深く結びついています。第1回受賞者は、ジフテリアに対する血清療法を確立したエミール・アドルフ・フォン・ベーリングです。彼の偉業は、医学が感染症に対して初めて治療的勝利を収めた象徴的な成果であり、当時の授賞理由では「疾病と死に対する勝利の武器を医師にもたらした」と評価されました。それ以降の受賞者には、細菌学、免疫学、遺伝学、分子生物学、神経科学の基盤を築いた研究者が名を連ねており、受賞テーマはその時代の医学研究の最前線を映し出す鏡としての役割を果たしています。
12月10日は単なる授賞日ではなく、医学史における節目としての意味も持っています。受賞者らは年末にかけてノーベル講演を行い、多くが自身の研究領域を俯瞰する総説的な内容を講演・出版します。このため、この時期には医学・生物学の「知の更新」が集中的に可視化されます。さらに、20世紀初頭の感染症克服から始まり、抗生物質・ワクチンの発展、DNA構造の解明、細胞シグナル伝達研究、がん遺伝子、免疫チェックポイント、mRNAワクチンなど、各時代の画期的な到達点が12月10日に記録されてきました。
また、ストックホルムとオスロで同日に授賞式が行われることは、科学と平和をともに顕彰するというノーベル賞の理念を象徴しています。生理学・医学賞は、人類の生命と健康の理解を深め、社会に貢献した研究を評価する賞として位置づけられており、自然科学の革新が文明の在り方や倫理を左右する現代において、その意義はますます大きくなっています。
このように12月10日は、生理学・医学賞が授与される日としてだけではなく、世界の医学生物学がその一年の歩みを振り返り、未来への方向性を確認する特別な日です。医学の歴史に刻まれた重要な発見が公式に記録されるとともに、次世代の研究者に新たな挑戦を促す象徴的な記念日となっています。
医学類の学生が学外の臨床実習に行っているので、研究室内に人が少なくて寂しく感じます。年末に向けて気が焦りますが、ひとつひとつ作業をこなして研究活動の時間を確保したいものです。
田中啓二さんとの個人的な思い出 (永田和宏JT生命誌研究館)
日本分子生物学会会報誌に掲載された永田和宏先生の田中啓二先生の追悼記事で、大隅良典先生のノーベル賞受賞晩さん会の様子が描かれています。
https://www.mbsj.jp/about-mbsj/tsuitou_tanaka-sensei.html
