ラボセミナーは、学会のYoung Investigator Awardの報告を行いました。Tさんおめでとうございます💐フロンティア医科学学位プログラムの大学院生が研究進捗報告を、医療科学類生が論文紹介を行いました。
Translational Psychiatry, 2025年
Prenatal omega-3 fatty acids supplementation mitigates some schizophrenia-like deficits in offspring: A PET and MRI study in a rat model 出生前のオメガ3脂肪酸補給は、統合失調症様の障害を軽減する:ラットモデルにおけるPETおよびMRI研究
Diego Romero-Miguel, María Luisa Soto-Montenegro
Instituto de Investigación Sanitaria Gregorio Marañón, Madrid, Spain
本研究は、妊娠中のオメガ3脂肪酸(OM)補給が、統合失調症モデルラットにおける行動異常や脳構造・機能異常を予防できるかを検討したものである。母体免疫刺激(MIS)モデルを用い、妊娠ラットに免疫刺激物質PolyI:Cを投与し、OM強化飼料を出産直前まで(OM7)または妊娠期間全体(OM21)で与えた。成体となった仔ラットに対し、行動試験、PET(脳代謝)、MRI(脳構造)など多面的な評価を実施した。
その結果、OM7およびOM21はMISモデルにみられる過活動(オープンフィールド試験)を予防したが、短期記憶障害(NPR試験)はOM7でのみ改善された。PETによる代謝評価では、OM7は前頭皮質や体性感覚皮質の代謝を亢進させ、視床下部や線条体などの代謝を抑制するパターンを示した一方、OM21では顕著な代謝変化はみられなかった。MRIでは、両処置ともMISによる脳室拡大を有意に防ぎ、OM21はさらに海馬体積および白質構造の指標(MD、FA)を改善した。MRSでは前頭皮質のNAA+NAAGの低下傾向がみられたが、行動異常とは一致せず、代償的な神経化学的変化の可能性が示唆された。
本研究の新規性は、OM補給のタイミング(OM7とOM21)を比較しながら、統合失調症様表現型に対する効果をPETおよびMRIで包括的に評価した点にある。特に、OM7が前頭葉代謝を改善し、OM21が白質構造を保護するという異なる効果が示された。これは、妊娠中のOM補給が炎症応答や神経発達に対して異なる時期に作用しうることを示唆している。
本研究は、オメガ3脂肪酸が単なる補助療法にとどまらず、出生前介入として統合失調症の一次予防に寄与する可能性を示した。臨床応用にはさらなる研究が必要だが、ヒトへの展開に向けた基礎的根拠を提供する重要な成果といえる。
オメガ3脂肪酸とは
オメガ3脂肪酸(OM:Omega-3 Fatty Acids)は、人体にとって必須の多価不飽和脂肪酸(PUFAs)であり、細胞膜の構成成分でありながら、体内で十分に合成できないため食事から摂取する必要がある栄養素です。
α-リノレン酸(ALA)
植物油(亜麻仁油、えごま油など)に多く含まれる
→体内でEPAやDHAに変換されるが、その変換効率は低い
エイコサペンタエン酸(EPA)
青魚(サバ、イワシ、サンマなど)に多く含まれる
→抗炎症作用、血液をサラサラにする作用などがある
ドコサヘキサエン酸(DHA)
青魚や母乳などに含まれ、脳や網膜、神経組織に多く存在
→神経細胞の構造維持や発達に重要
摂取の推奨と注意点
- 日本人の食生活では、DHA/EPAの摂取量が比較的多いとされるが、加工食品中心の食生活では不足しがちである。
- サプリメントとしても利用可能だが、酸化しやすいため保存・品質管理が重要
- 高用量摂取により出血傾向(血液が固まりにくくなる)などの副作用がまれに報告されている






