ふと漂ってくる金木犀の香りに秋の訪れを感じます。研究室へ向かう朝の道、どこからともなくその甘く懐かしい香りが流れてきて、思わず足を止めたくなる瞬間があります。花は小さく目立たないのに、その存在は圧倒的で、まるで季節そのものが香りとなって訪れるかのようです。
金木犀の香りには、どこか記憶を呼び起こす力があります。学生のころ、授業を抜けて歩いた通学路、夕暮れのグラウンド、遠い誰かの笑い声。香りに触れるたびに、失われた時間がそっと甦ります。だからこそ、この季節には少し切なさが混じります。やがて花は散り、香りも薄れていきます。それでもその余韻は心に長く残り、今年もまた、確かに秋を迎えたことを知らせてくれます。金木犀の花の香る頃、人は立ち止まり、過ぎゆく日々の中に小さな永遠を感じます。
研究室では、学生たちがコツコツと実験をしていました。卒業後に、学生時代に研究を頑張ったことをふと思い出す瞬間があることがいいなぁと思います。
鳴らせる鐘を鳴らしなさい。 完璧な供物を捧げようとするのは忘れなさい。 すべてのものにはひびがある。 光はそのひびから差し込むのです。 (レナード・コーエン)
Ring the bells that still can ring. Forget your perfect offering. There is a crack. A crack in everything. And that is how the light gets in. (Leonard Cohen)






「金木犀香る坂道秋の日のしづかに降る雨にぬれつつ」(太田水穂)
「秋風に 匂ひ流るる 木犀の 花の色香も 移ろひにけり」(藤原定家)
「金木犀 香りを放つ そのように 私も誰か 探しているか」 (俵万智)