第277回つくばブレインサイエンスセミナーが開催されます

日時:11月21日(火)18:00開始予定
場所:筑波大学・医学エリア・健康医科学イノベーション棟8階講堂

演題タイトル:価値観が生まれる脳の仕組みの理解を目指して~霊長類動物モデルを用いた研究~
山田 洋先生(筑波大学 医学医療系)

ヒトは日常生活の様々な場面で、物事の良し悪しを評価して行動を決める。このような価値に基づく行動は、従来、経済学の分野で広く取り扱われてきた。伝統的な経済学では、ヒトは合理的な判断に基づいて行動する事を前提としたが、実際のヒトの行動は完全に合理的ではない事が明らかとなっている。例えば、1万円持っていて2万円を得るのも、100万円持っていて2万円を得るのも、利得は同じ2万円だが、1万円から増えた2万円の方が大きな価値があるように感じる。この例のように、価値の主観的な感じ方は多くのヒトで客観値からずれることが知られている。このように、ヒトの経済行動に関わる認知特徴を普遍的に説明するのが、ノーベル経済学賞を受賞したプロスペクト理論であり、数理モデルを用いる事でヒトの価値観を客観的に評価することを可能とする。
本セミナでは、ヒトの代表的な価値観が生まれる神経メカニズムの理解を目指し、これまでに私が行ったマカクザルを用いた研究を紹介する。まずはじめに、プロスペクト理論を用いてマカクザルとヒトの判断行動を比較することで、ヒト価値判断のモデル動物にサルを位置づける事を可能とした研究を紹介する(参考文献1)。この行動学的な検証の紹介に続き、ヒト価値判断のモデル動物に位置付けたサルの神経活動を測定することで、ヒトと良く似た価値判断が生まれる神経メカニズムを解明した研究を紹介する(参考文献2)。実験では、ギャンブルを行うサルの脳の「報酬系」と呼ばれる諸領域の神経細胞活動を測定したが、その中でも眼の直上に位置する前頭眼窩野や脳の中央部に位置する線条体の神経細胞が、プロスペクト理論から予測されるサルの主観に応じて活動することを明らかとした。そして、報酬系の諸領域に観察された神経細胞の活動パターンを数学的に組み合わせたデコーディングにより、プロスペクト理論が行動から予測するサルの主観(主観的な利得、主観的な確率)を再現する事を可能とした。これらの結果は、主観的な価値を生み出す情報を報酬系の諸領域の神経細胞が分散符号化して処理していることを示しており、これらの神経細胞活動から、個体の感じる主観的な価値を客観的に測定・評価することが可能になった。

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