Journal Club (December 20, 2022)

Anat Sci Int 2022 Jul;97(3):251-263. doi: 10.1007/s12565-022-00667-6. Epub 2022 May 6.

Updates on cadaver surgical training in Japan: a systematic facility at Chiba University (日本における死体外科手術トレーニングの最新情報:千葉大学の系統的な設備)

Takane Suzuki 1, Miyako Suzuki-Narita 2, Kenji Kubota 2, Chisato Mori 2

1Department of Bioenvironmental Medicine, Graduate School of Medicine, Chiba University, 1-8-1 Inohana, Chuo-ku, Chiba, 260-8670, Japan. takane.suzuki@faculty.chiba-u.jp.
2Department of Bioenvironmental Medicine, Graduate School of Medicine, Chiba University, 1-8-1 Inohana, Chuo-ku, Chiba, 260-8670, Japan.

*大学にご献体いただいたご遺体を使わせていただいて行う手術手技の修練や研究開発は,カダバーサージカルトレーニング(Cadaver Surgical Training, CST)と呼ばれる。

*森千里先生は、文豪 森鴎外の曾孫にあたる。「医学者としても大仕事」 森鴎外ひ孫の森千里教授、功績語る 産業医大で講演

Abstract

Cadaver surgical training (CST), which ensures medical safety by improving the skills of surgeons, is popular overseas. However, training involves ethical issues given the use of cadavers. In 2012, the Japan Surgical Society and the Japanese Association of Anatomists compiled and opened the “Guidelines for Cadaver Dissection in Education and Research of Clinical Medicine (Guideline 2012)” to the public. This has allowed Japan to conduct CST or research under the regulations of Postmortem Examination and Corpse Preservation Act and the Body Donation Act. However, its dissemination has been sluggish. The Clinical Anatomy Lab (CAL), established in 2010 at Chiba University, is a facility for conducting CST and research. In the 11 years since its inception, 250 programs have been implemented. Orthopedics had the most implemented in the clinical field, with 120 (48%), followed by emergency and critical care medicine with 27 (10.8%), and neurological surgery with 27 (10. 8%). Based on the purpose of the training, the most common objective for the programs (approximately 83%) was education. Further, the highest number of programs was recorded in 2018 (34) and participants in 2017 (631). The implementation of CST requires more than just guiding surgeons to a dissection practice room. There are several methods of preserving cadavers to make them suitable for CST. For various surgical simulations, an operating table is more suitable than a dissection table. The current paper provides information on how to implement CST in universities that have so far only worked on anatomy education for medical students.

外科医の技術向上により医療安全を確保するCadaver surgical training(CST)は海外で盛んである。しかし、トレーニングには、遺体を使用することから倫理的な問題がある。2012年、日本外科学会と日本解剖学会は「臨床医学の教育・研究における死体解剖に関するガイドライン(ガイドライン2012)」をまとめ、公開した。これにより、日本では死後検査及び死体保存法、献体法の規制のもと、CSTや研究を行うことができるようになった。しかし、その普及は遅々として進んでいない。千葉大学に2010年に設置された「臨床解剖学研究室(CAL)」は、CSTや研究を行うための施設である。開設から11年間で250のプログラムが実施された。臨床分野では整形外科が120件(48%)と最も多く実施され、次いで救急・救命医療が27件(10.8%)、脳神経外科が27件(10.8%)であった。研修の目的別では、「教育」が最も多く(約83%)であった。さらに、プログラム数は2018年(34件)、参加者数は2017年(631人)が最も多かった。CSTの実施には、外科医を解剖実習室に誘導するだけではない。CSTに適した遺体を保存する方法はいくつかある。様々な手術シミュレーションには、解剖台よりも手術台が適している。今回の論文では、これまで医学生のための解剖学教育しか取り組んでこなかった大学に、CSTを導入するための情報を提供する。

Discussion

大学で学生の解剖実習用に保存されている死体は、組織が硬直し、関節が動かないホルマリン固定の死体である。外科医が死体を使って学びたいことと、学生が実習で学ぶことは異なる。実際の手術の視野の中で、手術の手順に沿って人体の構造を正確に観察することが重要である。さらに、内視鏡やX線透視装置のモニター越しに見る画像と直接目で見る画像の違いや、手で直接臓器を触る感覚と鉗子やロボットアームで触る感覚を一致させることが重要です。これらの情報は、生体に近い質感と動きを保つ死体からしか得ることができない。

死体ラボで扱う死体は、腐敗せずに長期間保存できること、そして生体に近い柔軟性を持っていることが求められる。全身麻酔の患者のように柔らかい筋肉と、動く関節を持つ死体。呼吸と循環がないことを除けば、極めて生体に近い状態で解剖することができる。つまり、究極のシミュレーション教育なのである。最近では、人工心肺装置を装着したり、血管に血流を模した液体を充填して出血を模擬し、血管の保存や止血の訓練を行うことができるという報告(Careyら2015、Minnetiら2018)もなされている。しかし、あまりにリアルさを追求するあまり、長い闘病生活の末にようやく苦しみから解放された遺体の内臓を、人工心肺装置などにつなぎ直して「動かす」ことは、万人に受け入れられるとは限らない。国によって遺体の取り扱いに対する考え方が異なるため、この方法の導入には慎重な検討が必要である。

日本は人口1000人あたりの医師数がOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で10番目に少なく(www.OECD.org, 2020)、女性医師の割合も最も低い(22%)(www.OECD.org, 2021)と言われている。日本の人口1000人あたりの医学部卒業生数もOECD諸国の中で最低(7.1%)であることから、文部科学省は近年、医学部卒業生数を2005年の5790人から2020年の7140人に増やす努力を継続している(OECD.org, 2021)。厚生労働省の報告書(2018年)によると、各診療科の医師数は増加傾向にあるものの、若いうちに必要な手術技術を習得する上で、妊娠・出産などのライフイベントによる休職や離職が障害になるとの考えから、外科医の数は減少し続けているとのことである。現状は、外科医の減少がさらに過酷な働き方につながるという悪循環に陥っていると考えている。

外科医には、解剖学や手術の技術を学ぶための施設が必要である。これからの外科医は、自己研鑽ができるようなカダバーラボラトリーのある環境を求めているはずである。日本のように死体に対する法的規制が強い国では、カダバーラボラトリーを設置することは難しい。しかし、従来の学生教育や形態学研究だけでなく、医療人に求められる教育・研究環境をより柔軟にシフトしていくことが必要である。日本のすべての大学にカダバーラボが設置される日も近いと思われる。CSTができる環境が、死体提供制度とともに、現在CSTができない国にも広がっていくことを期待しています。より多くの外科医が死体から学ぶことができれば、提供者の貴重なご厚意に報いることができるのである。

Fig.11 Dissecting practice room. There are a total of 32 dissecting tables with ventilation capacity and formalin countermeasures. Each dissection table is equipped with a 27-inch monitor https://link.springer.com/article/10.1007/s12565-022-00667-6/figures/11

医学群医学類のWさんが、AREの研究進捗状況を報告しました。

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共焦点レーザー顕微鏡を使用できるようになりました。医学共通機器室に感謝いたします。

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