Journal Club (October 18, 2021)

2021 Oct 7; eabj7960. doi: 10.1126/science.abj7960.

The glial framework reveals white-matter fiber architecture in human and primate brains (グリアフレームワークにより、ヒトと霊長類の脳における白質繊維の構造を明らかにする)

グリアフレームワーク:アストロサイトとオリゴデンドロサイトが、支持する軸索に沿って短い列をなして集まっていることを指す。

ROEY SCHURR* and AVIV A. MEZER *Corresponding Author

Edmond and Lily Safra Center for Brain Sciences, Hebrew University of Jerusalem, Jerusalem, Israel.

・ヘブライ大学は、イスラエルの国立大学である。

Abstract
Uncovering the architecture of white-matter axons is fundamental to the study of brain networks. We developed a method for quantifying axonal orientations at ~15 micron resolution. This method is based on the common Nissl staining of postmortem histological slices. Nissl staining reveals the spatial organization of glial cells along axons. Using structure tensor analysis, we leveraged this patterned organization to uncover the local axonal orientation. We used Nissl-based structure-tensor analysis to extract fine details of axonal architecture and demonstrated its applicability in multiple datasets of humans and non-human primates. Nissl-based structure tensor analysis can be used to compare fine-grained features of axonal architecture across species, and is widely applicable to existing datasets.

要約

白質軸索の構造を明らかにすることは,脳内ネットワークの研究に不可欠である。筆者らは、15 μmの解像度で軸索の方向性を定量化する方法を開発した。この方法は、死後の組織切片の一般的なNissl染色に基づいている。Nissl染色は、軸索に沿ったグリア細胞の空間的構成を明らかにする。構造テンソル解析(Nissl-ST法)を用いて、このパターン化された組織を活用し、局所的な軸索の方向性を明らかにした。筆者らは、 Nissl-ST法 を用いて、軸索構造の詳細を抽出し、その適用性をヒトおよび非ヒト霊長類の複数のデータセットで実証した。Nisslベースの構造テンソル解析は、軸索構造の細かな特徴を種間で比較するために用いることができ、既存のデータセットにも広く適用可能である。

本論文の特徴

約140年前にドイツのミュンヘン大学の学生であるFranz Nisslが開発した、古典的な神経組織染色法であるニッスル染色を用いて、霊長類脳切片の白質の繊維走行(神経結合)を可視化したのが、本論文の「売り」である。近年の論文としては、著者の数が少ない。おそらくお金があまりかかっていない研究である(?)

本論文の図の構成

https://www.science.org/doi/10.1126/science.abj7960

図1は、nissl-ST法をヒト死後脳切片の脳梁の軸索走行の解析を示している。

図2では、既存の解析方法と nissl-ST法を比較している。(A)Nisslベースの構造テンソル(B)偏光イメージング
(PLI、面内解像度1.3×1.3 μm2 )(C)in vivo拡散MRI(解像度1.25 mmで平面に投影したpeak orientation)。下縦束 (ILF、破線の楕円)のように、主要な繊維束が平面に対して垂直に交差している領域でも、すべての方法で面内軸索の方向性が類似していると推定されている。
偏光イメージング法: 3D 神経線維構造を明らかにする方法の一つである。繊維の方向は、偏光を照射することで再構成される。線維が交差する領域は再構成が難しい。

図3では、軸索が交差する領域においてnissl-ST法が有効か調べている。図2Aと同じ脳切片での面内配向のコヒーレンスマップを示している。
(B) 半卵円中心の軸索交差領域の拡大図。グリア細胞の配列のばらつきが配向密度関数 (gODF; glial-rows orientation density function)に反映されている(右)。半卵円中心の繊維交差領域(矢頭)など、コヒーレンスの値は低くなる。
(C) 内側-外側軸(赤)に沿った軸索が、内側-外側軸(緑)に沿った軸索と交差する、エディンガーの櫛(Edinger’s Comb: レンズ束Lenticular Fasciculusの軸索が内包を通過する)の領域におけるグリアの配置の拡大図。この領域での交差は、グリア細胞の短い列の向きの急激な変化として現れる。軸索交差以外の潜在的な信号源(血管や灰白質近くのニューロン)は,Nissl-STで抽出したピークの方向性に影響を与えないことがわかった。

図4では、複数のデータセットおよび種に対するNissl-ST法の広範な適用性を確立するために、4つの独立したデータセットの組織切片にNissl-STを適用している:2つのヒトの標本および2つの非ヒト霊長類(アカゲザルとバーベットモンキー;http://brainmaps.org/)。Nissl-STは、データセット間で類似した特徴を持つ方位マップを抽出することに成功している。Edinger’s Combの領域は種を超えて保存されており、各標本でグリア列の交差が同様の特徴を示すことがわかった(図4B)。

・補足図1-19まである。

〇ニッスル染色とニューロン

大脳皮質が発達しているヒトの脳では、長距離の神経結合が発達する。軸索の配線にはコストがかかる。リボゾームが存在しない軸索では、タンパク質合成を行うことができないため、ニューロンの細胞体では盛んなタンパク合成が行われている。ニューロンでは、粗面小胞体やリボソームが発達しており、塩基性のアニリン色素で濃染される(ニッスル染色)。イオンチャネルなどのfoldingが難しいタンパクの合成は小胞体に負荷をかけ、異常タンパクの修復にもエネルギーが必要である(小胞体ストレス)。これらの特徴は、ある種の神経疾患において、細胞死によるニューロン脱落につながる。Nissl染色は、これまで主に灰白質の構造の研究に主に用いられており、白質の繊維構造の研究には使用されてこなかった(均一に見えるため)。(参考:wikipediaのニッスル染色の頁)

〇Discussion

Nissl-STは、正常な発育、正常な加齢、および統合失調症のような白質に影響を及ぼす病的状態における白質の研究に今後使用できる可能性が大きい。このようなNissl-STの応用には、組織学的なデータが提示する可能性のある独自の課題を考慮する必要がある。例えば、ミクログリアの反応を伴う病理状態では、グリア細胞の空間的な分布に変化が見られることがある。

Nissl-ST、PLI、およびミエリン染色に基づく構造センサー分析に共通する特徴は、ミエリン化された軸索に対して感度が高いことである。現在のNissl-STの実装は2次元的なものであり、面内の繊維の方向性を解決することはできない。今後、同じ切片でNissl-STとPLIを直接比較することで、面内と面外の両方の方向性に対する感度の違いがより明らかになるかもしれない。今回提案した手法をさらに発展し、Nissl-ST法を三次元データセットに適用したい。そのためには、セクション間の染色のばらつきを補正するための特殊なツールが必要となる。このようなデータセットは、神経画像データと統合することができるだろう。

Nissl-STのモデルフリーのアプローチは、Nissl染色された脳切片に、これまで使われていなかった驚くほど豊富な情報層を明らかにする。既存の手法と比較した場合のNissl-STの利点は、白質から得られる新規マップと、皮質および皮質下構造から得られるマップのコレジストレーションにある。これにより、白質構造のマップと灰白質構造のアトラスを簡単に統合することができる。

DTIの解説動画
Beautiful 3-D Brain Scans Show Every Synapse | National Geographic
Abstract watercolor texture. Modern painting. Colorful rainbow palette. Avant-garde art. Reminiscent of graffiti. Contemporary art. Stains, spray paint. Colorful streaks

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