第259回つくばブレインサイエンス・セミナー定例会が開催されます

演題:大脳皮質GABAニューロンの発生発達とGABA機能

江角 重行(Shigeyuki Esumi)先生(熊本大学大学院生命科学研究部形態構築学分野)フロンティア医科学学位プログラム非常勤講師

日時:2020年 12月 8日(火) 18:00より

2020年12月8日(火)以降にオンラインにて講演スライドを配信(予定)場所SARS2感染再拡大を受け,やむを得ずオンサイトでの講演を中止し,オンラインにて動画を配信する予定です。配信は学内限定となります。

場所:筑波大学・医学エリア・健康医科学イノベーション棟8階講堂

司会 増田 知之 先生

要旨

 大脳皮質は記憶、認知、判断といった高次脳機能が発現されるきわめて重要な働きを担う部位である。これらの機能は、興奮性のグルタミン酸ニューロンと抑制性のGABAニューロンの二種類の細胞によって支えられている。二種類の細胞数の比率はほぼ一定で、GABAニューロンは20%を占めている。GABAは抑制性神経伝達物質であり、神経細胞を興奮させるグルタミン酸とともに神経活動を調節しており、GABAニューロンの数が減少した場合には興奮性神経細胞の入力が抑制性の入力を上まわり、結果として癇癪様発作が起こる。また、統合失調症患者や精神疾患モデルマウスにおいてはGABA合成酵素GAD67の発現低下やGABAニューロンのサブタイプの一種であるparvalbumin (PV) 陽性細胞の減少が報告されている。GABAニューロンの数や位置は発生発達過程において、厳密に調節されていると考えられるが、そのメカニズムは十分にはわかっていなかった。そこで、大脳皮質GABAニューロンの発生機構を解析するため、GAD67-GFPノックインマウスを用いてその動態を解析したところ、大脳皮質に移動してもまだ分裂する能力を持ったGABA神経細胞前駆細胞Intermediate progenitors of GABAergic Neuron (IPGNs) の存在が明らかになった (Wu et al., Development. 2011)。さらに解析を進め、胎生期に分裂するIPGNsの比率を調べたところ約30%が分裂していることが明らかになった (Esumi et al., in revision)。この結果から、ほとんどのGABAニューロンは胎生期の基底核隆起 (GE) において分裂を終え大脳皮質内に入ると考えることができる。
 ところで近年、GABAが神経伝達物質としての機能のみならず、口蓋形成、腹壁の閉鎖などの形態形成にも強く関与することが最近明らかになってきたが、中枢神経系の発生発達に与える影響は不明であった。そこで、大脳皮質の発生過程おけるGABAの機能を探るため、GABAを放出するために必須であるvesicular GABA transporter (VGAT) を局所的に欠損させたマウスを解析したところ、生後間もない時期に全て死亡することがわかった。その原因を探るために、RNA-seq解析を行った結果、統合失調症家系で変異がみられるErbB4や細胞分化や移動に関わる遺伝子であるGFAPやFabp7 (BLBP) が変動していることが明らかになった。次に、これらの発現変動がGABAニューロン/グルタミン酸ニューロンのどちらに影響を与えるか詳細に解析するため、生後0日目の大脳皮質の細胞を単離し、Chromium single-cell RNA-seq解析を試みたところ、特異的VGAT欠損マウスの大脳皮質では、グルタミン酸ニューロン群の遺伝子発現プロファイルが大きく変化していた。この結果は、大脳皮質発生においてGABAは神経伝達物質以外の機能を持つことを示唆している。

*江角先生は、解剖学会若手研究者の会 副委員長の職務にも活発に取り組んでいらっしゃいます。

http://www.md.tsukuba.ac.jp/tbsa/

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