観察から実験へ

クロード・ベルナール(Claude Bernard, 1813年2月22日生–1878年)は、近代実験医学を確立したフランスの生理学者であり、医学研究の方法論を根本から転換させた人物です。19世紀前半までの医学は臨床観察や経験的知識に大きく依存していましたが、ベルナールは仮説を立て、実験操作によって変数を制御し、結果を再現的に検証するという体系的手法を導入しました。主著『実験医学研究序説』(1865)において、観察(observation)と実験(expérimentation)を厳密に区別し、医学を因果関係の科学へと高める必要性を論じています。この方法論は、今日の生理学、薬理学、神経科学、分子医学に至るまで継承されています。

ベルナールの最大の理論的貢献は「内部環境(milieu intérieur)」の概念です。彼は、生体が外界から相対的に独立して生命活動を営むためには、体内環境の恒常性が維持されなければならないと論じました。この思想は後にウォルター・B・キャノンの「ホメオスタシス」概念へと発展し、自律神経系や内分泌系によるフィードバック制御理論の基盤となっています。神経科学の観点からは、環境刺激が神経応答を介して内臓機能や代謝を調節するという統合理解の出発点を築いた点に大きな意義があります。

実験的業績としては、肝臓がグリコーゲンを産生・貯蔵し、血糖が単なる食物由来ではないことを証明した研究が特に重要です。これは代謝生理学の創始的発見であり、糖尿病研究の理論的基礎となっています。また、膵液が消化に不可欠であることを明らかにし、消化生理学の発展にも寄与しました。さらに、交感神経切断実験によって血管拡張が生じることを示し、神経支配と血流調節の因果関係を実証しています。この成果は神経性血管制御や脳循環研究の先駆けであり、今日の神経血管カップリング研究にも通じています。

ベルナールは生体を、構造の集合ではなく、機能が相互に連関する統合系として捉えました。この視座は、神経‐内分泌‐免疫相互作用の理解、ストレス生理学、さらには現代の神経免疫学研究へと連続しています。一方で、彼は多くの動物実験を実施しており、その活動は当時から倫理的議論を呼びました。この点でも、実験医学の発展と研究倫理の問題を同時に考える契機を与えた人物といえます。ベルナールは、医学を経験の学から実証の科学へと転換し、内部環境と恒常性という概念を通じて神経科学を含む現代生命科学の理論的基盤を築いた存在です。その影響は21世紀の統合生理学や分子神経科学に至るまで持続しています。

本日は筑波大学前期試験2日目です。スタッフにはそれぞれタスクが割り振られていますが、研究室では、医学類学生と大学院生が実験を頑張りました。新医学専攻の学生の方は疾風のように、顕微鏡観察に出かけていきました。M1の学生の方は、実験室での初めての実験に取り組みました。少しずつ実験に慣れましょう!

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