思春期、樹状突起に灯る記憶の火

新医学専攻に所属する医学類5年生が下記の論文紹介をしてくれました。質問もたくさん出ました。医学類1年生も参加してくれました。少しずつ勉強して、パワーアップを目指しましょう。

Science Advances, 2026年(2026年1月14日公開)

Dendritic compartment-specific spine formation in layer 5 neurons underlies cortical circuit maturation during adolescence (第5層ニューロンにおける樹状突起区画特異的スパイン形成は、思春期の皮質回路成熟の基礎となる)

Ryo Egashira, Takeshi Imai et al

Abstract

認知機能の発達は思春期まで継続するが、思春期において大脳皮質回路がどのように変化するかは十分に理解されていない。本研究では、マウス一次体性感覚野に存在する第5層投射型(L5 ET)ニューロンを対象に、樹状突起スパインの包括的な超解像マッピングを行った。成体では、樹状突起スパインはアピカル樹状突起の中間区画に高度に集中しており(スパイン密度の「ホットスポット」)、この部位は樹状突起カルシウムスパイクが発生する領域であった。一方、発達初期にはスパインは樹状突起全体にほぼ均一に分布していた。しかし思春期において、apical dendriteの中間区画に限局してスパイン密度が経験依存的に増加し、他の樹状突起区画ではわずかな減少が認められた。さらに、このホットスポットにおけるスパインの蓄積は、統合失調症モデルマウスにおいて特異的に障害されていた。これらの結果は、思春期における樹状突起区画特異的なスパイン形成が、L5 ETニューロンにおける非線形な樹状突起統合を形成し、認知機能の成熟を支えていることを示唆している。

Background

  • 興奮性シナプスの多くは樹状突起スパインに形成され、スパイン密度は発達で変化する。
  • 従来は「小児期増加→思春期減少(刈り込み)」という平均論が主流だったが、全ニューロン規模・区画特異性は十分に検証されていなかった。
  • 樹状突起上の位置はシナプス統合や樹状突起スパイク(Ca²⁺スパイク)に重要である。

Abstract

マウス一次体性感覚野(S1)の第5層外終脳投射(L5 ET)ニューロンにおいて、SeeDB2を用いた大規模超解像スパインマッピングを実施した。成体では、樹状突起アピカル幹の最初の分岐点近傍(中間区画)にスパインが著しく集中(ホットスポット)し、発達初期には均一である分布が思春期に経験依存的に中間区画で増加することを示した。他区画では軽度の減少がみられた。さらに、統合失調症モデル(Hivep2 KO、Setd1a cKO、思春期Grin1 cKO)ではこのホットスポット形成が障害され、思春期スパイン形成異常と神経精神疾患の関連が示唆された。

Methods

  • SeeDB2 による組織透明化+Airyscan/Lightning 超解像(xy ~150 nm、z ~300–500 nm)を実施した。
  • Thy1-YFP-H マウスで L5 ET ニューロンを標識した。
  • P7, P14, P21, Adult(P56–P84) の発達段階で、アピカル/ベーサル/オブリーク樹状突起のスパイン密度を全長定量した。
  • 感覚遮断(片側ひげ除去)、思春期特異的 Grin1 cKOHivep2 KOSetd1a cKO を解析した。
  • in vivo Ca²⁺イメージング とスライス電気生理で機能検証した。

Results

本研究は、マウス一次体性感覚野(S1)に存在する第5層投射型(L5 ET)ニューロンを対象に、思春期における樹状突起スパイン分布の変化を全ニューロン規模で解析したものである。SeeDB2による組織透明化と超解像顕微鏡法を組み合わせることで、従来の光学顕微鏡では見逃されてきた太いapical dendrite幹上の微細スパインを高精度に検出し、apical、basal、oblique樹状突起それぞれのスパイン密度を定量した。

その結果、成体のL5 ETニューロンでは、スパイン密度が均一ではなく、尖端樹状突起apical dendriteの中間区画、すなわち最初の分岐点近傍に著しく集中していることが明らかとなった。この領域ではスパイン密度が5.6 ± 1.7 spines/µmに達し、最も低い領域の0.5 spines/µm未満と比べて10倍以上の差が認められた。一方、基底樹状突起では大きな偏在はなく、oblique樹状突起(斜め方向に分枝)では起始部の位置に応じた緩やかな違いがみられるにとどまった。

発達段階を比較すると、P7ではスパイン分布は全体に低く均一であったが、P14以降の思春期において、尖端樹状突起中間区画のみでスパイン密度が選択的に増加し、他の区画ではむしろ軽度の低下が生じた。この変化は樹状突起の伸長や分岐数の変化によるものではなく、区画特異的なスパイン形成・除去の調節を反映していた。

さらに、ひげ除去による感覚遮断や、思春期特異的なNMDA受容体サブユニットGrin1の条件的欠損は、この中間区画でのスパイン増加を選択的に阻害した。加えて、Hivep2 KOおよびSetd1a欠損といった統合失調症モデルマウスでは、発達初期には異常がみられないにもかかわらず、成体で尖端樹状突起中間区画のスパイン密度が低下しており、過剰な刈り込みではなく思春期のスパイン形成不全が共通の表現型であることが示された。

機能的解析では、このスパイン集中部位が独立したシナプス入力を受け、成体で効率的に樹状突起Ca²⁺スパイクやバースト発火を生み出すことが示され、解剖学的ホットスポットの形成が樹状突起統合機能の成熟と密接に連動していることが示唆された。以上より、本研究は、思春期における樹状突起区画特異的スパイン形成が皮質回路成熟の中核をなすこと、そしてその破綻が神経精神疾患の病態基盤となり得ることを明確に示している。

Discussion

思春期における大脳皮質回路の成熟は、単なるシナプス数の減少や「刈り込み」によって進行するのではなく、樹状突起の特定区画における選択的かつ経験依存的なスパイン形成によって能動的に構築されることが示された。マウス一次体性感覚野の第5層投射型(L5 ET)ニューロンでは、成体において尖端樹状突起の最初の分岐点近傍、すなわち中間区画にスパインが高度に集中する「ホットスポット」が形成されるが、この構造は発達初期から存在するものではなく、思春期に入ってから初めて顕在化する。

しかもこのスパイン増加は他の樹状突起区画では認められず、むしろそれらの領域では思春期以降に緩やかなスパイン減少が生じていた。したがって、皮質回路成熟は全体的な減少ではなく、区画特異的な再配分として理解されるべきである。さらに、このホットスポット形成は感覚経験に強く依存し、ひげ除去による感覚遮断や、思春期特異的なNMDA受容体機能の喪失によって選択的に阻害されたことから、思春期の神経活動とNMDA受容体依存的シナプス可塑性がその基盤にあることが明確となった。

加えて、Hivep2やSetd1aといった統合失調症関連遺伝子を欠損したモデルマウスでは、発達初期には正常であるにもかかわらず、成体でこのホットスポットの形成不全が共通して観察された。これは、統合失調症の病態が従来想定されてきた「過剰なスパイン刈り込み」ではなく、思春期に本来起こるべきスパイン形成の失敗に起因する可能性を強く示唆するものである。機能的にも、このスパイン集中部位は樹状突起Ca²⁺スパイクの発生効率と密接に結びついており、トップダウン入力とボトムアップ入力を統合する樹状突起計算の中枢として働くことが示された。

以上より、本研究は、思春期を脳回路の「刈り込み期」とみなす従来の概念を修正し、経験依存的な樹状突起区画特異的スパイン形成こそが、認知機能成熟とその破綻を理解する鍵であることを提示している。

〇プレスリリース

https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1390

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