母体免疫から新生児防御へ

厚生労働省の専門部会は19日、せき、発熱などの風邪症状や肺炎の原因となるRSウイルス感染症で新生児や乳児の重症化を予防するため、妊婦を対象にしたワクチンの定期接種を来年4月から始める方針を示しました。妊婦に接種し、生まれた子どもに効果が出る「母子免疫ワクチン」の定期接種化は初めてです。

妊婦がワクチンを接種すると、母体の免疫系がその抗原を認識して B 細胞を活性化し、主に IgG 1 段階の抗体を産生します。その IgG 抗体は母体血中に高濃度で存在するようになり、妊娠後期(例:妊娠 28~36 週)など胎盤移行が活発な時期に、胎児へ移行する準備が整います。
移行の主役は、胎盤絨毛表面に存在する多核の栄養膜「シンシチオトロフォブラスト(syncytiotrophoblast)」と、胎児毛細血管側の内皮細胞を含む構造です。母体の血液が間質を通じて絨毛表面に接することで、母体 IgG がシンシチオトロフォブラスト細胞に取り込まれ、細胞内小胞(エンドソーム)を介して胎児側へ輸送されます。この過程には、いわゆる「FcRn(新生児 Fc 受容体)」が鍵を握っており、pH 6(細胞内エンドソーム環境)で IgG Fc 領域と結合し、pH 7.4 に戻る時に胎児血中へ放出されます。
胎児への移行後、その IgG 抗体は生後間もない乳児期に残存し、乳児自身の免疫が十分に発達するまで(特に生後 0〜6 か月間)外来感染から守る“抗体バリア”として機能します。母体接種+胎盤移行という戦略は、乳児期に直接ワクチン接種が難しい時期をカバーするため、非常に有効な予防策です。

移行効率には以下のような変数があります。

  • IgG サブクラス:IgG1 は移行効率が最も高く、IgG2 などは低めです。
  • 抗体の糖鎖修飾(Fc ガリノシル化/グリコシレーション)が移行効率に影響を与える可能性が報告されています。
  • 母体の総 IgG 濃度があまりに高いと、受容体飽和によって移行が抑制されるという機構も考えられています。
  • 母体・胎盤の炎症、早産・低体重児・母体感染症など、胎盤機能が低下する状況では抗体移行が減弱されるというデータがあります。

このような機構を踏まえ、母子免疫ワクチンでは「妊娠末期」に接種することで母体が十分な抗体を産生し、かつ胎盤移行が最大化されるタイミングを捉えるのが理想とされています。母体が抗体を産生し、胎盤を通じて胎児に移行し、生後早期の乳児期にその抗体が機能するという一連の流れが、母子免疫ワクチンの核心メカニズムです。

本日も学生たちは、実験と顕微鏡観察に取り組みました。スタッフは、某実習課題の採点と論文のrevision (major revision…)に取り組みました。フロンティア医科学学位プログラムの大学院生の論文受理の連絡がありました💐あんなに暑かった夏が過ぎ去り、秋を飛び越して冬になったような気候です。体調維持に意識を向けて、研究に取り組みたいものです。

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