2025年11月6日、アメリカの分子生物学者ジェームズ・デューイ・ワトソン(James Dewey Watson, 1928–2025)が、ニューヨーク州イースト・ノースポートのホスピスで死去しました。享年97歳でした。ワトソンは1953年、フランシス・クリックとともにDNAの二重らせん構造を提唱し、生命科学に革命をもたらしました。この発見によって1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞し、分子遺伝学時代の幕を開けた人物として知られます。彼の業績は、遺伝情報の複製と発現の仕組みを理解する基盤を築き、今日のゲノム研究や医療の発展へとつながりました。一方で晩年、ワトソンは人種や知能に関する発言が問題視され、Cold Spring Harbor Laboratory(CSHL)の名誉職を剥奪されるなど、科学界内外で大きな論争を巻き起こしました。
教育者・著述家としてのワトソンもまた卓越していました。彼の代表的教科書『Molecular Biology of the Gene』(1965年初版)は、遺伝子の構造と機能を体系的に整理し、分子生物学教育の礎となりました。また『Molecular Biology of the Cell』(初版1983年)にも関与し、細胞生物学を学ぶための標準書として長く愛用されています。これらの教科書は世界中の大学・大学院で採用され、数世代にわたって分子生物学者を育てました。現在も生物系の学類・大学院生は、こちらを教科書として使用ています。
一般向け著書『The Double Helix』(1968年)は、DNA構造発見の舞台裏を描いた回想録であり、科学史における名著の一つとされています。発見の興奮、研究者間の競争、偶然や直感の重要性を生々しく描写し、科学が人間的営みであることを示しました。この書は、共同研究者ロザリンド・フランクリンの描写が不公正であるとして批判を受け、後年その功績が再評価されています。その後も『DNA: The Secret of Life』(2003)、『Avoid Boring People』(2007)、『Genes, Girls, and Gamow』(2001)などを執筆し、科学の社会的側面を語り続けました。ワトソンの科学者人生は、発見・教育・議論のすべてを通じて20世紀生物学の軌跡を体現しており、彼の残した教科書と著作は今も科学教育の重要な礎です。彼の死は、科学の栄光と責任を問い直す契機となり、人類の遺伝研究の歴史に深い足跡を刻んだ巨星の終焉を意味しています。
早朝、この訃報に接して沈思黙考しました。2010年ころに国際ワークショップでワトソン博士の口演があり、会場から溢れるほどの聴講者がいたことを覚えています。午前中は医学類学生が学会発表の準備のために研究室で活動しました。作業が早く、教員にも発表内容や発表の仕方について考える時間をくださいます。自らもこの才能に応えたいと思わせてくれます。午後は大学院説明会で研究室と研究内容について説明しました。新たに研究室に参加してくださる才能を探しています。
https://www.bbc.com/news/articles/cn8xdypnz32o





