雲のように風のように

研究や教育の現場にいると、若い人の中に「これから形になろうとする力」を感じることがあります。
それは教える側がつくり出すものではなく、すでにその人の中に眠っているものです。その芽をどう育てるか。できるだけ束縛せず、自由に活動させることが大切だと考えています。学生が、「相転移」する瞬間が見えることがあり、そのような場に立ち会えるのは教員として喜ばしく思います。

心理学では、人は自分の意思で選び、考え、試すときに最も力を発揮すると言われています。エドワード・デシとリチャード・ライアンの「自己決定理論」によると、人の成長には「自分で決める自由(自律性)」「自分はできるという感覚(有能感)」「人とのつながり(関係性)」の3つが欠かせません。
若い人が自分で考えて動ける環境は、その中でも「自律性」を育む最も大切な土台になります。与えられた課題をこなすだけでは、心の奥にある創造の力は目覚めません。

MITメディアラボやプリンストン高等研究所のように、研究者自身がテーマを選び、自由に探求できる環境から多くの発見が生まれています。また、ノーベル賞を受賞した研究者の多くも、若い頃に「やりたいことをやってみなさい」と背中を押された経験を語っています。自由の中でこそ、自分自身の問いに出会い、その答えを探す旅が始まります。

「自由」と「放任」は違います。自由に挑戦できる一方で、失敗しても安心できる環境――つまり、見守りと支えが必要です。指導者は、航海の舵を奪う人ではなく、遠くで灯をともす灯台のような存在であるのが理想なのかもしれません。方向を示しながらも、最終的に進む道を選ぶのは本人自身です。

若い才能は、本人が自分の足で歩むことでしか開花しません。私たちにできるのは、その歩みを信じて、見守り、必要なときに手を差し伸べることです。現在は、学生の教育は外部資金に依存せざるを得ない状況です。競争的外部資金は使途に制限があり、短期間で結果を出すことが求められています。この状況下で、自由な環境を維持するのは困難ですが、それでもできる限り手を尽くしたいものです。

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