秋晴れの穏やかな気候の中、多くの参列者を迎えて、2025年度篤志解剖体慰霊式が挙行されました。
篤志解剖体慰霊式は、医学や看護などの教育・研究のために自らの遺体を提供した方々の御霊に感謝と敬意を捧げる式典です。献体は「篤志献体」と呼ばれ、医学教育の基盤を支える尊い行為であり、学生が人体の構造や生命の尊厳を学ぶ上で欠かせないものです。慰霊式はその感謝の思いを形にする場として、全国の医学部で毎年行われています。多くの場合、無宗教形式で進められ、開式の辞、黙祷、学長や学生代表による式辞、献体者名の奉読、献花、閉式の辞などが行われます。学生にとっては、学問の出発点として献体者への感謝と謙虚な心を新たにする教育的意義を持っています。筑波大学では、毎年秋に「篤志解剖体慰霊式」が大学会館講堂で執り行われます。主催は医学医療系および白菊会で、学長、教職員、学生、遺族が参列します。式では、学長式辞、学生代表の言葉、白菊による献花などが厳かに行われ、静かな祈りの時間が設けられます。筑波大学の慰霊式は、ご献体の追悼のみならず、医学倫理と人間理解を深める場として受け継がれている行事です。
今年度は、永田学長、武井医学群長、白菊会代表者様、学生代表(医学類2年Nさん)が追慕の辞を述べました。関係者の皆様に感謝します。












追慕の辞
本日、筑波大学解剖学実習慰霊式が執り行われるにあたり、解剖実習のためにご献体くださいました方々に、医学生を代表して謹んで追悼のことばを捧げます。私たちは、白菊会会員の皆様並びにご遺族の皆様の深いご厚意により、本年五月中旬から六週間にわたる解剖学実習を行うことができました。実習初日である五月十二日から、まもなく半年を迎えようとしております。
実習を通じ、私たちは人体の構造をはじめ、各種器官の多様な姿や道具の扱いなど、従来の学習とは異なる学びを得ました。資料を読むことに加え、自らの目で観察し、医学を修めるうえで重要な知識を身につけるとともに、命を託される緊張と、命に向き合う責任を強く感じました。新たな知見への興味や向上心に満たされる一方、思うように学習が進まない難しさや、終わりなき準備・復習のなかで挫折を覚えることもありました。それでも私たちは、貴重な機会を現実のものとしてくださったすべての方々、そして尊いご意思をもって身を捧げてくださったご献体の方々への、限りない感謝の念を抱き続けました。
実習中、私たちにご献体くださった方々のお名前が知らされることはありません。個人情報を守るために極めて重要な配慮であると同時に、呼び名すら求めず純粋な献身を尽くされた、その精神を象徴するものでもあると受け止めております。私たちは医療者を志す者として、この学び、努力、機会、そしてときに味わった挫折までも糧とし、責任と感謝を片時も忘れず、これからも精進を重ねてまいります。
最後に、謹んでご献体くださいました方々のご冥福をお祈り申し上げるとともに、ご遺族の皆様の計り知れないご厚意に、あらためて深く感謝申し上げます。ここに追慕の辞とさせていただきます。
令和七年十月八日
筑波大学 医学群 医学類 二年 K. N.