不安定な天気

医学類の実習が完了しましたが、まだまだ実習関係でやることがあります…7月の実習開始までに落ち着きたいものです(無理?)。それでも午後から大学院生と実験を行いました。夕方から「カンデル神経科学」の輪読会とラボセミナーを実施しました。M4のTさんが研究進捗報告を医療科学類3年生2名が論文紹介を行いました。夕立が一過性に強く降りました。

Progress in Neuropsychopharmacology & Biological Psychiatry

Prenatal exposure to valproic acid induces sex-specific alterations in rat cortical and hippocampal neuronal structure and function in vitro (バルプロ酸の胎内曝露はラットの大脳皮質および海馬ニューロンの構造と機能に性差を伴う変化を誘導する)

Olivia O.F. Williams, Melissa L. Perreault (Department of Biomedical Sciences, University of Guelph, Canada)

Abstract(要旨)
自閉スペクトラム症(ASD)には性差が存在するが、その機序は不明である。本研究では、胎内でバルプロ酸(VPA)曝露されたラットから得た大脳皮質(CTX)および海馬(HIP)の初代培養ニューロンを用い、性差に基づくニューロン活動、形態、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK-3)シグナルを評価した。さらに出生時の大脳皮質遺伝子発現も解析した。VPAは特に大脳皮質において顕著な構造・機能変化を引き起こし、性差が観察された。

Background(背景)
ASDは社会的コミュニケーション障害や反復行動を特徴とし、男性の方が診断率が高いが、女性は症状を隠す傾向があり、性差の実態は不明確である。VPA胎児期曝露モデルはASDの病態研究に広く用いられているが、性差の検討はほとんど行われていない。

Methods(方法)
・妊娠ラットにVPA(500 mg/kg)または生理食塩水を腹腔内投与(妊娠12.5日目)
・出生直後の雄・雌ラットのCTXおよびHIP組織からニューロンを初代培養
・MEA(多電極アレイ)で電気活動解析
・免疫染色と形態解析(Sholl解析、樹状突起スパイン数、AIS長測定)
・ウエスタンブロットでGSK-3の発現と活性評価
・出生直後のCTX組織でトランスクリプトーム解析

Results(結果)
・CTXニューロンではVPA群で活動性と同期性上昇、特に雌で顕著
・HIPニューロンでは雌VPA群で活動性上昇、雄VPA群では不規則な発火パターン
・CTXニューロンの樹状突起分岐はVPA群で低下、雌で顕著
・HIPニューロンでは遠位部での樹状突起分岐増加(両性)
・雌CTXニューロンの樹状突起スパイン数増加
・CTXのGSK-3α/β活性低下(両性)、HIPでは変化なし
・出生時のCTX遺伝子発現は、雌で主にダウンレギュレーション、雄でアップレギュレーション
・神経ペプチド遺伝子(penk, pdyn)、受容体遺伝子(drd1, adora2a)に性特異的変化

Discussion(考察)
・VPAモデルによりCTXとHIPに性差を伴う神経発達異常が誘導され、ASDの性差に関連する可能性
・雌はより顕著なニューロン活動・構造変化を示すが、ASD症状は男性に多いことから、行動と神経基盤に複雑な関連が示唆される
・GSK-3活性低下と樹状突起スパイン増加が関連する可能性
・CTX遺伝子発現の性差がニューロン発達に影響を与えると考えられる

Novelty compared to previous studies(従来研究との新規性)
・VPAモデルにおける詳細な性差の解析を初めて実施
・ニューロン機能、形態、GSK-3活性、遺伝子発現を包括的に評価
・性特異的な分子・細胞レベルの異常を報告

Limitations(限界)
・in vitro培養系のため、実際の行動症状との直接的関連は不明
・出生直後の解析であり、発達過程の変化は未評価
・他のASDモデルとの比較が必要

Potential Applications(応用可能性)
・ASDの性差理解に貢献し、性別に基づく診断・治療戦略の基盤となる可能性
・GSK-3を標的としたASD治療の性差検討への示唆

GSK-3とは

正式名称:Glycogen Synthase Kinase-3(グリコーゲン合成酵素キナーゼ3)

1. 基本情報

  • セリン/スレオニンキナーゼ(タンパク質のリン酸化酵素)
  • 中枢神経系(脳)を含め全身に発現
  • 2つのアイソフォームが存在:
    • GSK-3α(51 kDa)
    • GSK-3β(46 kDa)

2. 神経系における役割

  • シナプス可塑性の制御
  • ニューロンの発達(軸索・樹状突起形成)
  • シグナル伝達調節(特にイオンチャネル機能)
  • 神経活動の調整
  • 脳内疾患(アルツハイマー病、統合失調症、ASD)への関与

3. 活性調節のメカニズム

  • GSK-3のリン酸化が上昇すると不活性化(活性低下)
  • 本研究では:
    • 大脳皮質(CTX)のVPA群でpGSK-3α・β上昇 → 活性低下
    • HIP(海馬)では性差を伴い異なる変化

4. ASD(自閉スペクトラム症)との関連

  • GSK-3は神経発達・シナプス形成に関与
  • ASDモデル動物でGSK-3活性が異常(過剰または低下)との報告多数
  • GSK-3抑制薬はASD治療の候補として研究中

5. 本研究の位置づけ

  • VPAモデルにより、大脳皮質ニューロンでGSK-3活性が性差を伴って低下
  • 特に雌では:
    • GSK-3活性低下 → ニューロンの過剰興奮・スパイン数増加と関連
  • 雄では活性低下は限定的、発火パターン不安定化に関与

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