本日も朝からM3と生物学類4年生が実験と研究会の準備を行いました。夕方には、多くの学生が集まってラボセミナーを行うことができました。セミナーでは、生物学類の卒業研究報告会を行いました。HさんとKさんが、自分の発表を振り返り、また興味がある演題について紹介してくださいました。お二人が身に着けたことを後輩に伝えていってほしいです。またスタッフMと特任研究員が論文紹介をしました。年度末のお忙しい時期にありがとうございました。朝から冷たい雨がつくば一帯を包み込んでいましたが、昼前に大粒の雪に変わりました。寒暖の差が大きく体調管理が難しいですが、若い人たちと一緒に年度末を駆け抜けたいものです。
PNAS (Proceedings of the National Academy of Sciences), 2024年 (Vol. 121, No. 14, e2217019121)
DOI: 10.1073/pnas.2217019121
Force-induced tail-autotomy mitochondrial fission and biogenesis of matrix-excluded mitochondrial-derived vesicles for quality control
力誘導による尾部自切型ミトコンドリア分裂と、品質管理のためのマトリックス排除型ミトコンドリア由来小胞の形成
Xiaoying Liu 1, Linyu Xu 1, Yutong Song 1, Zhihao Zhao 1, Xinyu Li 1, Cheuk-Yiu Wong 1, Rong Chen 2, Jianxiong Feng 3, Yitao Gou 4, Yajing Qi 4, Hei-Man Chow 5 6 7, Shuhuai Yao 2 8, Yi Wang 4, Song Gao 3, Xingguo Liu 9 10, Liting Duan 1
Department of Biomedical Engineering, The Chinese University of Hong Kong, Hong Kong SAR 999077, China.
重要性 (Significance)
ミトコンドリアは、細胞の生存と死に不可欠な二重膜構造のオルガネラである。ミトコンドリアは常に融合と分裂を繰り返し、その機能を維持している。しかし、ミトコンドリア分裂の異常は、がん、心血管疾患、神経変性疾患などに関与している。一方で、ミトコンドリア分裂の多様性、その異なるメカニズム、そして役割については、いまだ完全には解明されていない。本研究では、これまで知られていなかった、機械的および機能的に独自のミトコンドリア分裂のタイプ を特定した。この分裂は、尾部のような細長い管状構造がミトコンドリアから突出し、その後切断される「尾部自切型分裂(tail-autotomy fission)」と呼ばれる現象である。
尾部自切型分裂は、機械的な張力(tensile force)によって駆動され、外膜のみを選択的にマトリックス排除型小胞(matrix-excluded vesicles)として分離することができる。この小胞は、ミトファジー(選択的オートファジー)に関与するタンパク質を動員し、さらなる分解を促進する。さらに、長時間の力の適用により、より多くの分裂が誘導され、より多くのマトリックス排除型小胞が生成されることが明らかになった。本研究の成果は、ミトコンドリア分裂の多様性(heterogeneity)と力学的制御(mechanoregulation)の理解を深めるものである。
要旨
ミトコンドリアは細胞の生存と死に不可欠な二重膜構造のオルガネラであり、機能を維持するために常に融合と分裂を繰り返している。本研究では、機械的な張力が駆動する「尾部自切型ミトコンドリア分裂(tail-autotomy fission)」を新たに発見した。この分裂では、ミトコンドリアから尾部のような細長い管状構造が突出し、その後切断される。さらに、分裂によってミトコンドリア外膜のみを含む「マトリックス排除型ミトコンドリア由来小胞(MDVs)」が形成され、パーキン(Parkin)やLC3Bを動員してミトファジー(選択的オートファジー)を促進することが明らかになった。本研究の結果は、ミトコンドリア分裂の多様性とそのメカノレギュレーション(力学的制御)の新たな理解を提供する。
背景
- ミトコンドリアは、細胞の代謝、エネルギー産生、ストレス応答に関与するオルガネラであり、正常な機能を維持するために絶えず融合と分裂を繰り返している。
- これまでに、ミトコンドリア分裂には 「中心部分裂(midzone fission)」 と 「末端部分裂(peripheral fission)」 の2種類があることが知られていた。
- しかし、これら以外にも異なる分裂メカニズムが存在する可能性があるが、その詳細は明らかになっていなかった。
方法 (Methods)
- 光遺伝学的手法(Optogenetics) を用いて、ミトコンドリア特異的な機械的刺激を与え、張力がミトコンドリア分裂に与える影響を調査。
- 蛍光ライブセルイメージング を用いて、ミトコンドリアの形態変化をリアルタイムで観察。
- siRNA によるノックダウン実験を行い、分裂に関与する因子(DRP1やMFF)を特定。
- ER(小胞体)との相互作用 を調査し、分裂部位におけるERの関与を解析。
結果
- 尾部自切型分裂の発見
- ミトコンドリアの細長い管状構造(tail-like tubule)が伸長し、その後切断される新しい分裂様式を発見。
- この分裂は 自然発生的に 起こり、細胞種によって6〜14%の割合で観察された。
- 機械的張力が尾部自切型分裂を促進
- 光遺伝学的手法を用いた力刺激 によって、尾部自切型分裂の頻度が増加。
- 持続的な力の適用 は、短時間の刺激よりも分裂を促進。
- DRP1/MFFおよびERの関与
- DRP1とMFFがこの分裂に必要であり、これらの機能を抑制すると分裂が大幅に減少。
- 分裂部位には 小胞体(ER)の管状構造 が接触し、分裂を促進していることが判明。
- 分裂によるmtDNAの非対称分配
- 分裂後、一部のミトコンドリア断片には mtDNAが含まれず、このような断片は ミトファジーによって分解 される可能性が高い。
- マトリックス排除型ミトコンドリア由来小胞(MDVs)の形成
- 尾部自切型分裂は、ミトコンドリアの 外膜のみを含む小胞(MDVs) を生成。
- これらの小胞は ParkinとLC3Bを動員 し、選択的オートファジー(ミトファジー)を促進。

考察 (Discussion)
- ミトコンドリア分裂の新しい分類としての位置付け
- これまで知られていた2種類の分裂(中心部分裂・末端部分裂)に加え、尾部自切型分裂 が存在することを示した。
- この分裂は、機械的張力によって駆動される点で特異的。
- ミトコンドリアの品質管理機構
- 一部の分裂産物(mtDNAを含まない断片)は、ParkinとLC3Bを動員してミトファジーを誘導。
- これは、ミトコンドリアの選択的除去を可能にする新たな品質管理機構である可能性がある。
- 力学的刺激によるミトコンドリアダイナミクスの制御
- 細胞内の張力は、ミトコンドリアの形態だけでなく、分裂や分解にも影響を与える。
- 今後、細胞の異常な力学環境(例: 癌や神経変性疾患)において、この分裂がどのような影響を持つかを調査する必要がある。
- これまでに報告されていない尾部自切型ミトコンドリア分裂を特定。
- 機械的張力が直接ミトコンドリア分裂を駆動する ことを実証。
- ミトコンドリア由来小胞(MDVs)の新たな形成機構 を発見し、品質管理との関連性を示した。
- 本研究では in vitro(培養細胞) での実験が中心であり、生体内での機能 は未検証。
- ミトファジーの詳細な経路や 他のオルガネラとの関係 については未解明な点が多い。
本研究の応用可能性
- 神経変性疾患や心血管疾患 で観察される異常なミトコンドリア動態の理解。
- ミトコンドリア標的治療(例: ミトコンドリア分裂の調節による疾患治療)への応用。
- 機械的刺激を利用した細胞内オルガネラの制御技術 の開発。





