統合失調症の新機序薬-ザノメリン–トロスピウムKarXT-

The Lancet Articles Volume 403, Issue 10422p160-170January 13, 2024

Efficacy and safety of the muscarinic receptor agonist KarXT (xanomeline–trospium) in schizophrenia (EMERGENT-2) in the USA: results from a randomised, double-blind, placebo-controlled, flexible-dose phase 3 trial (米国での統合失調症におけるムスカリン受容体作動薬KarXT(ザノメリン–トロスピウム)の有効性と安全性: 無作為化、二重盲検、プラセボ対照、柔軟用量フェーズ3試験の結果)

Inder Kaul 1Sharon Sawchak 1Christoph U Correll 2Rishi Kakar 3Alan Breier 4Haiyuan Zhu 1Andrew C Miller 1Steven M Paul 5Stephen K Brannan 1

Karuna Therapeutics (カルナ・セラピューティクス), Boston, MA, USA.

カルナ・セラピューティクス(Karuna Therapeutics Inc.)は、精神神経疾患の治療薬を開発するバイオ医薬品企業です。本社はマサチューセッツ州ボストンにあり、2024年3月18日にブリストル・マイヤーズ スクイブの完全子会社になりました。カルナ・セラピューティクスでは、神経科学の知識を活かして、精神疾患や神経疾患を抱える人々のために革新的な医薬品を開発しています。

Abstract
KarXTは、統合失調症の急性精神病症状を経験している成人患者において有効で安全性が高いことが示されました。この試験(EMERGENT-2)は、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、柔軟用量のフェーズ3試験であり、主要評価項目のPANSS(Positive and Negative Syndrome Scale)スコアの改善において統計的に有意な結果が得られました。

Background
フランスでアンリ・ラボリによって、麻酔前投薬として開発されたクロルプロマジンが、精神症状を改善する効果を持つことが偶然発見されました。クロルプロマジンはD₂ドーパミン受容体拮抗薬として作用し、統合失調症の陽性症状(幻覚、妄想など)の治療に革命をもたらしました。今回、72年ぶりに、新たな作用機序を持つ抗精神病薬が登場することになりました。ザノメリンはM₁およびM₄ムスカリン受容体に作用するアゴニストであり、既存のD₂ドーパミン受容体拮抗薬とは異なる作用機序を持ちます。しかし、従来のザノメリンは消化器系の副作用が大きな課題でした。KarXTはトロスピウムを組み合わせ、副作用を軽減することを目的としています。

Methods
18~65歳の統合失調症患者252名を対象に、KarXTまたはプラセボを1日2回、5週間投与しました。PANSSスコアを主要評価項目とし、副次評価項目にはポジティブおよびネガティブ症状スコア、臨床全般印象重症度スコア(CGI-S)が含まれます。

Results

KarXTはプラセボに比べてPANSSスコアが-9.6ポイント(95%信頼区間-13.9~-5.2, p<0.0001)大きく減少しました。主要な副次評価項目でも有意な改善が確認されました。副作用は軽度から中等度の消化器系症状が主であり、多くは一時的でした。

ザノメリン(Xanomeline)

  • 作用機序: ムスカリン受容体(特にM₁およびM₄受容体)のアゴニスト。
  • 役割: 統合失調症の陽性症状および陰性症状を改善する可能性があります。M₁受容体は認知機能に関与し、M₄受容体はドーパミン神経伝達を調節します。
  • 課題: 従来のザノメリンは消化器系の副作用(悪心、嘔吐、下痢)が多く、臨床的利用が制限されていました。

トロスピウム(Trospium)

役割: ザノメリンが周辺組織(特に消化器系)で引き起こす副作用を軽減するために用いられます。トロスピウムは血液脳関門を通過しないため、中枢効果を持たず、副作用のリスクを減少させます。

作用機序: 周辺性ムスカリン受容体拮抗薬。

Discussion

特長と臨床的意義

統合失調症の急性期治療において有効性が確認されています。長期的な管理や併用療法への応用も期待されています。
KarXTは、D₂受容体をブロックせずムスカリン受容体を活性化する新しい治療クラスの薬剤として、統合失調症の治療に有望です。既存の薬剤に比べ、運動症状や体重増加などの副作用が少ないことが特長です。

新規性:

現在市販されている抗精神病薬はD₂ドーパミン受容体を拮抗することで効果を発揮します。一方、KarXTはムスカリン受容体をターゲットとしており、従来の薬剤とは異なるメカニズムです。D₂受容体関連の副作用(錐体外路症状など)が回避される可能性があります。

適応症:

Novelty compared to previous studies
KarXTはD₂受容体拮抗薬と異なる作用機序を持ち、副作用プロファイルが従来の抗精神病薬と異なる点で新規性があります。

Limitations
試験期間が5週間と短く、長期的な有効性や安全性が評価されていません。また、対照群に既存の薬剤を使用しておらず、直接比較はできませんでした。KarXTは新しい作用機序を持つ抗精神病薬として、統合失調症の急性症状や長期的管理に応用が期待されます。

https://medical-tribune.co.jp/rensai/articles/?blogid=11&entryid=565701

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.