人工知能とジェンダー (December 28, 2024)

SSRN (Social Science Research Network), 2024年

Can Artificial Intelligence Improve Gender Equality? Evidence from a Natural Experiment
人工知能はジェンダー平等を促進できるか?自然実験からのエビデンス

Leo Bao, Chen Lin et al.

Monash University, Department of Banking and Finance, Australia

モナシュ大学(Monash University) は、オーストラリアのビクトリア州メルボルンに本部を置く、世界的に著名な研究型大学です。1958年に設立され、オーストラリア国内でも最大規模の大学の一つとして知られています。

Abstract

教育における性差別は、さまざまな分野における女性の代表率を妨げている。教師の性別構成や考え方がなかなか変わらない中で、性差のない学習環境をどのように作り出せばよいのだろうか。人工知能(AI)の最近の進歩により、この目標を達成する方法が提供されている。エンジニアはAIトレーナーを性差のないものにすることができ、性別に関連する情報を入力しないようにすることができる。私たちは、男性優位の戦略ボードゲームにおいて、一部の人間の教師をAIトレーナーに置き換えるという自然実験のデータを使用し、AIトレーニングの有効性を検証しました。AIの導入により、男児と女児の学習成果が改善され、既存の男女格差が縮小しました。調査回答によると、AIの情報優位性、親しみやすい外観、双方向機能が生徒の学習速度の向上に役立ったことが示されています。また、授業の録画記録から、AIトレーナーの差別のない感情状態が男女平等性の改善を説明できることが示唆されています。私たちは、類似した環境における学習成果の改善と、多様性、公平性、包摂の促進におけるAIの潜在能力を示しています。

要旨 (Abstract):
この研究は、教育分野におけるジェンダー平等の促進における人工知能(AI)の潜在的な効果を検討しています。AIトレーナーを導入することで、男女生徒のパフォーマンスギャップが縮小され、教育効果が向上することが示されました。AIの中立的な感情と統計的分析能力がその効果を支えています。女性のSTEM分野や戦略ゲームにおける代表性不足は、教育のジェンダー差別が原因の一つです。本研究では、中国の囲碁訓練機関を対象に、COVID-19による自然実験を利用し、AIがジェンダーパフォーマンスギャップに与える影響を評価しました。

方法:
学生287名(男151名、女136名)を対象に、人間教師による指導グループとAIによる指導グループを比較しました。囲碁の試合データ、教師と生徒の感情データ、およびアンケートを用いて統計解析を実施しました。

本研究は、人工知能(AI)が教育におけるジェンダー平等を促進できるかを検討するため、中国の囲碁訓練機関での自然実験を分析したものです。COVID-19の影響で一部の教師がAIに置き換えられたことを利用し、AI指導と人間教師による指導の効果を比較しました。調査対象はダン級の学生287名(男子151名、女子136名)で、AI指導グループと人間教師グループに分け、成績データや指導動画、アンケート調査を用いて分析しました。その結果、AI指導を受けた学生は男女ともに成績が向上し、特に女子生徒の進歩が顕著でした。5か月のAI指導後、従来存在した男子優位のパフォーマンスギャップがほぼ解消されました。AIの高い情報分析能力や統計的フィードバック、中立的な感情表現が学習効果の向上に寄与したと考えられます。対照的に、人間教師は男子生徒に対してポジティブな感情を示す一方、女子生徒にはネガティブな感情を示す傾向があり、これが女子生徒の学習成果に不利な影響を及ぼしていた可能性が示されました。

AIはジェンダーに依存しない公平な指導を提供し、女子生徒にとって「信頼できる指導者」として機能しました。本研究はAIが教育分野でのジェンダー平等を促進する可能性を示す一方、対面教育や他の分野での効果についてはさらなる研究が必要であると結論づけています。

本研究で「教える側」の男女差が解析されていないため、以下の点が未解明となっています。

  • 男性教師と女性教師の指導スタイルの違い:
    男女の教師が異なる感情表現や指導アプローチを持つ場合、それが生徒の学習成果にどのように影響するかが不明です。
  • 生徒の性別と教師の性別の相互作用:
    例えば、女子生徒が男性教師よりも女性教師に対してより親近感を持つ可能性が考えられますが、この点は調査されていません。
図5図6は、AI指導が男女それぞれに与えた学習成果の変化を時間軸で示しており、男女間の成績差(ジェンダーパフォーマンスギャップ)の解消過程を視覚化しています。図5は平均ムーブ品質やエラー指標を用いてグループ間の変化を示し、図6はAI指導の効果を時系列的に比較しています。
図5では、男子生徒と女子生徒がAI指導と人間教師指導を受けた場合のパフォーマンスの違いが描かれています。平均ムーブ品質に関しては、AI指導を受けたグループでは男子生徒も女子生徒も急速にスキルを向上させていますが、特に女子生徒の向上率が顕著で、5か月後には男子生徒と同等のレベルに達しています。一方、人間教師指導グループでは男女ともに緩やかな改善が見られるものの、男子生徒が女子生徒を一貫して上回る結果が続いています。エラー数や重大なエラー数についても同様の傾向があり、AI指導グループでは女子生徒が男子生徒を追い上げ、最終的にエラー指標での差が解消される一方、人間教師グループでは男女間の成績差が持続しています。
図6では、AI指導の効果が男子生徒と女子生徒でどのように異なるかを時系列的に比較しています。指導開始以前(t = 0以前)では、AI指導グループと人間教師指導グループの間に有意な差は見られませんが、指導開始後(t = 0以降)、AI指導を受けた生徒の成果が徐々に向上していきます。男子生徒では改善が緩やかである一方、女子生徒では特に3~4か月後から急激なスキル向上が見られます。最終的には、女子生徒のパフォーマンスが男子生徒を追い抜き、5か月後には両者の成績差が解消されています。
これらの結果は、AI指導が男子生徒と女子生徒の両方に対して効果的であることを示していますが、特に女子生徒に対して大きな恩恵をもたらしていることが分かります。人間教師の指導環境では解消されなかったジェンダーパフォーマンスギャップが、AI指導によって縮小され、平等な学習成果を促進する可能性が示唆されています。図5と図6は、AIがジェンダーに基づく教育の不平等を改善するための有望なツールであることを強調する結果といえます。

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