Journal Club (October 12, 2024)

Sci Rep. 2024 Sep 27;14(1):22310. doi: 10.1038/s41598-024-71748-x.

Third-party punishment-like behavior in a rat model (ラットモデルにおける第三者罰に似た行動)


Kanta Mikami 1, Yuka Kigami 1, Tomomi Doi 1, Mohammed E Choudhury 1, Yuki Nishikawa 1 2, Rio Takahashi 1, Yasuyo Wada 1, Honoka Kakine 1, Mayuu Kawase 1, Nanae Hiyama 1, Hajime Yano 1, Naoki Abe 2, Tasuku Nishihara 2, Junya Tanaka 3


Department of Molecular and Cellular Physiology, Ehime University Graduate School of Medicine, Shitsukawa, Toon, Ehime, 791-0295, Japan.

Abstract

Third-party punishment (TPP) is an altruistic behavior or sense willing to punish transgressors as a third party not directly involved in the transgression. TPP is observed worldwide, regardless of tradition and culture, and is essential for morality in human society. Moreover, even preverbal infants display TPP-like judgement, suggesting that TPP is evolutionarily conserved and innate. Thus, it is possible that non-human animals display TPP-like behavior, although TPP has been said to be human-specific. We investigated whether or not male mature Wistar rats displayed TPP-like behaviors when they witnessed deadly aggression by an unknown aggressive mouse toward another unknown victim mouse. Normally reared rats did not display TPP-like behaviors, but rats reared with extensive affectionate handling by human caretakers as beloved pets contacted the unknown aggressive mice in a gentle manner leading to reduced aggression toward the unknown victim mice, even when the aggressive mice fought back. Furthermore, the handled rats touched unknown rat pups that were drowning in water and anesthesia-induced comatose rats more frequently than control rats. These findings suggest a possibility that TPP is not in fact human-specific and innate but rather an acquired behavior that flourishes in affectionate circumstances.

第三者罰(TPP)とは、違反行為に直接的に関与していない第三者が、違反者を罰することをいとわない利他的な行動や感覚である。第三者罰は、伝統や文化に関係なく世界中で観察されており、人間社会における道徳にとって不可欠なものである。さらに、言葉も話せない乳児でも第三者罰に似た判断を示しており、第三者罰は進化上保存された生得的なものであることが示唆される。そのため、第三者罰は人間特有のものと言われているが、人間以外の動物でも第三者罰に似た行動を示す可能性がある。そこで、成熟した雄のWistar系ラットが、攻撃性の強いマウスが別のマウスに対して致命的な攻撃を加えるのを目撃した際に、第三者罰に似た行動を示すかどうかを調査した。通常飼育のラットではTPP様行動は観察されなかったが、人間に可愛がられてペットとして飼育されたラットでは、攻撃性マウスが反撃しても、攻撃対象のマウスに優しく接触し、攻撃対象のマウスに対する攻撃性を減少させた。さらに、人間に可愛がられてペットとして飼育されたラットでは、水に溺れている見知らぬ仔ラットや麻酔薬で昏睡状態の仔ラットに接触する頻度も、対照ラットよりも高かった。これらの知見は、TPPが実際にはヒトに特有で生得的なものではなく、むしろ愛情に満ちた状況下で発達する獲得行動である可能性を示唆している。

Keywords: Behavior; Morality; Prefrontal cortex; Triage; Wistar.

Methods
成熟したオスWistarラットを通常の環境で育てた群と、人間によって愛情深く扱われた群に分け、見知らぬネズミ間の攻撃行動を目撃させた。さらに、水中で溺れる子ネズミや麻酔状態のラットに対する行動を観察するため、溺水試験とトリアージ試験を実施した。

Results
通常飼育されたラットは、攻撃的なネズミや犠牲者ネズミにほとんど接触しなかった。一方で、愛情を込めて扱われたラットは、攻撃者ネズミに対して穏やかに接触し、攻撃を抑制する行動を示した。この行動は、ラットが前脚で攻撃者ネズミを押さえ込むことで、攻撃的行動を和らげるものであった。また、これらのラットは、ICRネズミから反撃されることもあったが、それにもかかわらず攻撃を止める行動を続けた。さらに、愛情を受けたラットは、溺れる子ネズミや麻酔によって昏睡状態にあるネズミにも積極的に接触し、助けようとする行動を示した。一方、通常飼育されたラットは、これらの状況に対して特に関心を示さなかった。

Discussion
本研究は、ラットにおける第三者罰(TPP)に似た行動が、人間特有ではなく、愛情深い環境で育てられた場合にラットでも発現し得ることを示している。通常飼育されたラットは、攻撃的なネズミに対して関与しなかったが、愛情を受けて育てられたラットは、攻撃を穏やかに抑える行動を取った。これは、彼らが攻撃者を罰するためではなく、被害者を助けるために行動した可能性を示唆している。加えて、愛情を受けたラットは、溺れている子ネズミや昏睡状態のネズミに積極的に触れることで、生存を優先する傾向を示した。

従来の研究では、TPPは人間に特有の行動であり、非人間動物には存在しないとされていたが、本研究の結果は、この考えに対する異議を示すものとなった。愛情深い環境で育てられたラットは、直接の利害関係がないにもかかわらず、第三者としての介入行動を示した。このような行動は、道徳的判断や社会的行動が本能ではなく、愛情深い環境で学習される可能性があることを示している。

しかし、この行動の正確な動機についてはまだ不明な点が多い。TPPに似た行動が、純粋に他者の生命を守るための利他的行動なのか、あるいは単に攻撃者への興味や好奇心から生じているのかを明確にするためには、さらなる研究が必要だ。また、他の動物種や異なる実験条件での再現性も今後の課題となる。

図1では、愛情深く扱われたラット(EAHラット)と通常飼育されたラット(CNTラット)の行動を比較している。

  • 図1a–dでは、EAHラットが飼い主に対して強い親しみを示し、手のひらに集まる様子が描かれている(図1b–d)。一方で、CNTラットは飼い主に近づかず、親しみを示さない行動を取っている(図1e)。
  • 図1f–hでは、アタッチメントテスト(AtT)の様子が示されている。EAHラットは「Come!」や「Rick」と呼ばれた際に、自ら進んで飼い主の手に乗っている(図1g)。対照的に、CNTラットはほとんど反応を示さなかった(図1i)。
  • 図1j, kでは、オープンフィールドテスト(OFT)の結果が示され、EAHラットとCNTラットの移動距離が比較されている。移動距離に大きな差は見られず、両者ともに似た活動レベルを示している。
  • 図1l, mでは、エレベーテッドプラス迷路(EPM)におけるEAHラットの滞在時間が示されており、CNTラットに比べてEAHラットはオープンアームに長く滞在する傾向があり、これはEAHラットが不安を感じにくいことを示している。

この図全体を通して、愛情深く扱われたラットは、通常飼育されたラットに比べて人間に対する親しみや安心感が強く、不安レベルが低いことが示されている。

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