再掲) Journal Club (September 23, 2024)

ACS Nano Sep 13. 2024. doi: 10.1021/acsnano.4c07844. Online ahead of print.

Artificial Meshed Vessel-Induced Dimensional Breaking Growth of Human Brain Organoids and Multiregional Assembloids (人工メッシュ血管によるヒト脳オルガノイドおよび多領域アッセンブロイドの次元破壊成長)

Lei Xu 1 2 3Haibo Ding 1Shanshan Wu 2 3 4Nankun Xiong 1Yuan Hong 2 3 4Wanying Zhu 2 3 4Xingyi Chen 2 3 4Xiao Han 2 3 4Mengdan Tao 1Yuanhao Wang 2 3 4Da Wang 2 3 4Min Xu 2 3 4Da Huo 5Zhongze Gu 1Yan Liu 1 2 3 4


State Key Laboratory of Digital Medical Engineering, School of Biological Science and Medical Engineering; Department of neurology, affiliated Zhongda Hospital, Southeast University, Nanjing 210096, China. 南京大学生命科学・医学工学部

Abstract

Brain organoids are widely used to model brain development and diseases. However, a major challenge in their application is the insufficient supply of oxygen and nutrients to the core region, restricting the size and maturation of the organoids. In order to vascularize brain organoids and enhance the nutritional supply to their core areas, two-photon polymerization (TPP) 3D printing is employed to fabricate high-resolution meshed vessels in this study. These vessels made of photoresist with densely distributed micropores with a diameter of 20 μm on the sidewall, are cocultured with brain organoids to facilitate the diffusion of culture medium into the organoids. The vascularized organoids exhibit dimensional breaking growth and enhanced proliferation, reduced hypoxia and apoptosis, suggesting that the 3D-printed meshed vessels partially mimic vascular function to promote the culture of organoids. Furthermore, cortical, striatal and medial ganglionic eminence (MGE) organoids are respectively differentiated to generate Cortico-Striatal-MGE assembloids by 3D-printed vessels. The enhanced migration, projection and excitatory signaling transduction are observed between different brain regional organoids in the assembloids. This study presents an approach using TPP 3D printing to construct vascularized brain organoids and assembloids for enhancing the development and assembly, offering a research model and platform for neurological diseases.

脳オルガノイドは、脳の発達や疾患をモデル化するために広く利用されているが、その応用における大きな課題は、中心部への酸素と栄養の供給が不十分なため、サイズや成熟が制限されることである。本研究では、脳オルガノイドを血管化し、中心部への栄養供給を改善するために、二光子重合(TPP)技術を使用して高解像度のメッシュ血管を作成した。これらの血管は、直径20μmの側壁に多数のマイクロポアを持つフォトレジストから作られ、培養液がオルガノイド内部に拡散するのを促進する。血管化されたオルガノイドは、次元破壊的な成長と増殖の促進、低酸素およびアポトーシスの減少を示し、3Dプリントされたメッシュ血管が血管機能を部分的に模倣してオルガノイドの培養を促進することを示唆している。さらに、皮質、線条体、内側基底核原基(MGE)オルガノイドを分化させ、3Dプリント血管によって皮質-線条体-MGEアッセンブロイドを生成した。これにより、異なる脳領域オルガノイド間での細胞移動、投射、および興奮性シグナル伝達が強化されている。本研究は、TPP 3Dプリントを使用して血管化された脳オルガノイドおよびアッセンブロイドを構築するアプローチを提示し、神経疾患の研究モデルおよびプラットフォームを提供している。

Keywords: TPP 3D printing; artificial vessels; biomaterial engineering organoids; brain organoids; vascularized organoids.

背景

脳オルガノイドはヒト幹細胞から派生し、ヒトの脳の構造や機能を再現することができ、神経発生や神経疾患のモデルとして広く使用されている。しかし、これらのオルガノイドは血管を持たないため、酸素や栄養が中心部に行き渡らず、細胞の壊死や成熟の遅延が発生し、長期培養における成長が制限されることが課題である。この課題を解決するために、血管化された脳オルガノイドを安定して生成する技術が求められている。

方法

本研究では、TPP 3Dプリント技術を使用して、直径20μmのマイクロポアを持つメッシュ状の人工血管を作成した。これらの血管はフォトレジスト材料から作られ、脳オルガノイドと共培養した。また、皮質、線条体、内側基底核原基(MGE)から分化させたオルガノイドを、3Dプリントされた血管で融合させ、皮質-線条体-MGEアッセンブロイドを構築した。シミュレーションにより、これらの血管がオルガノイド内部のグルコース濃度を高め、乳酸の除去を促進することが確認されている。培養期間中に、血管化されたオルガノイドのサイズ、表面の複雑さ、低酸素状態、アポトーシス、神経シグナリング、細胞移動、神経投射などの生物学的特性を詳細に評価している。

図1は、3Dプリンティングによる血管化脳オルガノイドの概念図を示している。具体的には、長期培養中に脳オルガノイドが成長し、栄養供給が不十分なために中心部に壊死コアが形成されるプロセスが描かれている。この壊死コアの形成は、3Dプリントされたメッシュ状の血管を使用することで改善され、培養液がオルガノイド内部に効果的に拡散し、栄養供給が向上することが示されている。このアプローチにより、長期培養においてオルガノイドのサイズが大きくなるとともに、中心部の低酸素状態が軽減され、細胞のアポトーシス(細胞死)が抑制されることが確認されている​

Results

  1. オルガノイドの成長促進:
    血管化されたオルガノイドは、従来のオルガノイドと比較して有意に大きくなり、60日目には血管化オルガノイドの面積が2.76 ± 0.60 mm²、対照群は2.19 ± 0.51 mm²、デフォルト群は2.04 ± 0.66 mm²となっている。また、表面の複雑さも増し、血管化オルガノイドはインフレクションポイントの数が16.92 ± 2.39と高く、他の群よりも低い円形度を示している。
  2. 低酸素とアポトーシスの減少:
    血管化されたオルガノイドでは低酸素状態が大幅に軽減され、アポトーシス率も有意に低下している。アポトーシス率は60日目に20.60 ± 9.69%で、対照群の32.49 ± 9.87%より低い結果である。
  3. 神経マーカーの発現:
    血管化オルガノイドは、フォアブレインマーカーFOXG1、ドーサルテレーンス前駆細胞マーカーPAX6、およびニューロジェネシスマーカーDCXの高い発現を示している。さらに、深層および上層の皮質ニューロンマーカーTBR1、CTIP2、TUJ1、NeuNの発現も確認され、血管化がオルガノイドの神経分化を促進していることが示されている。
  4. カルシウムシグナリングの増強:
    カルシウムイメージングにより、血管化されたオルガノイドではカルシウムシグナリングが強化され、ピーク値が有意に高く(血管化群: 1.24 ± 0.88、対照群: 0.88 ± 0.45)、ニューロンの電気的活動が増強されている。
  5. マルチリージョンアッセンブロイド:
    血管化アッセンブロイドでは、異なる脳領域間の細胞移動と神経投射が促進されている。特に、内側基底神経節(MGE)由来の細胞が皮質および線条体に移動し、皮質から線条体への神経投射が増加している。

Discussion

本研究では、二光子重合(TPP)3Dプリンティング技術を使用して作成された人工メッシュ血管が、脳オルガノイドおよび多領域アッセンブロイドの成長や成熟に与える影響を検討している。従来、脳オルガノイドは血管がないために中心部への栄養供給が不十分であり、成長や成熟が制限されていた。この問題を解決するために、研究者たちは高度な3Dプリンティング技術を利用し、細かいマイクロポアを備えた人工血管を作成し、オルガノイドに栄養を供給する新しい方法を提案している。

  1. 血管化による成長促進:
    TPP 3Dプリント技術を用いて作成されたメッシュ状血管は、オルガノイドに栄養を効率的に供給し、次元破壊的な成長を促進している。この技術により、従来の脳オルガノイドと比較して、サイズの増大と細胞増殖の促進が観察されている。また、細胞死や低酸素の問題も大幅に軽減されている。このことは、3Dプリントされた血管が部分的に血管機能を模倣し、オルガノイドの長期培養を支援することを示している。
  2. 脳領域間の相互作用の促進:
    血管化されたオルガノイドは、異なる脳領域のオルガノイド(皮質、線条体、内側基底神経節:MGE)を融合させた多領域アッセンブロイドで使用された。この融合により、細胞間の移動や神経投射が促進され、神経回路形成に重要な役割を果たすことが示されている。さらに、カルシウムシグナリングが強化されていることから、血管化されたアッセンブロイドはより成熟した神経機能を持つことが示唆されている。
  3. 3Dプリント技術の利点:
    TPP 3Dプリント技術は、非常に細かいマイクロポアを備えた血管を高精度で作成できるため、オルガノイドに適した人工血管を生成することができる。これにより、オルガノイド内部への培養液の拡散が促進され、酸素や栄養が中心部まで行き渡る。この技術は、脳オルガノイドの次元破壊的な成長を実現し、より複雑な組織構造を形成するための基盤となる。
  4. 脳オルガノイドとアッセンブロイドの応用:
    本研究は、脳オルガノイドの成長や成熟に加えて、異なる脳領域の融合による多領域アッセンブロイドの形成にも焦点を当てている。この技術により、脳発達や神経疾患の研究におけるモデルとして、より複雑な脳組織を構築することが可能となっている。異なる脳領域間の相互作用を研究する上で、血管化されたアッセンブロイドは有望なツールとなる可能性がある。
  5. 制限と今後の展望:
    本研究の制限として、血管細胞を用いていないため、神経系と血管系の相互作用を再現することはできなかったことが挙げられる。今後の研究では、血管内皮細胞やミクログリアなどの血管関連細胞を取り入れ、より現実的な血管網を再現することで、より高度な脳モデルの構築が可能となるだろう。また、材料の硬度や物理的特性がオルガノイドの細胞挙動に与える影響についても追加の検討が必要である。

従来の技術では実現が難しかったミクロポア構造を持つ血管を3Dプリントで生成し、これにより脳オルガノイドの血管化を実現している。これにより、従来よりも大規模かつ複雑な脳オルガノイドおよびアッセンブロイドが得られている。本研究では血管細胞を使用していないため、血管細胞との相互作用や完全な血管網の再現には至っていない。また、使用した材料の硬度が細胞の挙動に与える影響についても検討が必要である。本技術は、神経疾患の研究モデルや薬剤スクリーニングのプラットフォームとして広く応用できる可能性がある。特に、異なる脳領域間の相互作用を研究するためのツールとして期待されている。

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