bioRxiv, 2024年
Fetal Kidney Transplantation for In Utero Fetuses 胎児期における胎児腎臓移植
Keita Morimoto, Shuichiro Yamanaka, Kenji Matsui, Yoshitaka Kinoshita, Yuka Inage, Shutaro Yamamoto, Nagisa Koda, Naoto Matsumoto, Yatsumu Saito, Tsuyoshi Takamura, Toshinari Fujimoto, Shohei Fukunaga, Susumu Tajiri, Kei Matsumoto, Katsusuke Ozawa, Seiji Wada, Eiji Kobayashi, View ORCID ProfileTakahi Yokoo
Division of Nephrology and Hypertension, Department of Internal Medicine, The Jikei University School of Medicine
Abstract
Potter sequence, characterized by bilateral renal agenesis, oligohydramnios, and consequent pulmonary hypoplasia, presents a significant challenge in the management of affected neonates. Due to their prematurity and associated abdominal complications, these infants often fail to reach a stage where dialysis can be safely initiated and sustained, leading to an exceedingly high mortality rate. Therefore, there is hopeful anticipation that interventions serving as a bridge to achieve a state where dialysis can be safely performed will markedly improve life expectancy. We have developed a unique approach of “transplantation of fetal kidneys from a different species during the fetal period” as a bridge therapy until stable dialysis therapy can be implemented. This is a new concept of fetal therapy, targeting the fetus in utero and utilizing fetal kidneys of an appropriate size for transplantation.
In this study, we first validated the approach using allogeneic transplantation. Fetal kidneys with bladders from GFP-expressing rats (gestational age 14.0-16.5 days) were transplanted subcutaneously into allogeneic rat fetuses in utero (gestational age 18.0-18.5 days) using a special needle transuterinally, and live pups were successfully obtained. The transplanted fetal kidneys with bladders were confirmed to have urine production capability. By periodic aspiration of the subcutaneous urinary cyst after birth, urine produced by the transplanted fetal kidney was successfully drained outside the body for an extended period (up to 150 days). Biochemical tests confirmed the solute removal capacity of the transplanted fetal kidney. Furthermore, despite allogeneic transplantation, long-term urine production was sustained without the use of immunosuppressants, confirming that organ transplantation into fetuses is associated with lower rejection compared to adult transplantation. Next, xenotransplantation was performed. When GFP-expressing mouse fetal kidneys (gestational age 13.0-13.5 days) were transplanted into rat fetuses in utero, maturation of renal tissue structures was confirmed even in the interspecies setting.
ポッター症候群は、両側性腎無発生、乏羊水症、およびそれに伴う肺低形成を特徴とし、罹患した新生児の管理に重大な課題をもたらす。これらの新生児は未熟児であり、腹部合併症を伴うため、しばしば透析を安全に開始・維持できる段階に至らず、死亡率が非常に高くなる。したがって、透析を安全に実施できる状態に到達するための橋渡しとなる介入が、生命予後を著しく改善することが期待されている。筆者らは、安定した透析療法が実施できるようになるまでの橋渡し療法として、「胎児期に異種の胎児腎を移植する」というユニークなアプローチを開発した。これは、子宮内の胎児を対象とし、移植に適した大きさの胎児腎を利用するという新しい概念の胎児療法である。
この研究では、まず同種移植を用いてこのアプローチを検証した。GFP発現ラット(妊娠14.0-16.5日)の膀胱付き胎児腎臓を、子宮内の同種ラット胎児(妊娠18.0-18.5日)に特殊な針を用いて経皮的に移植し、生きた仔ラットを得ることに成功した。移植された膀胱付き胎児腎臓は尿産生能を有することが確認された。出生後、皮下尿嚢胞を定期的に吸引することにより、移植胎児腎で産生された尿は長期間(最長150日間)体外に排出されることに成功した。生化学的検査により、移植された胎児腎臓の溶質除去能力が確認された。さらに、同種移植にもかかわらず、免疫抑制剤を使用することなく長期間の尿産生が維持されたことから、胎児への臓器移植は成人移植に比べて拒絶反応が少ないことが確認された。次に、異種移植が行われた。GFP発現マウス胎児の腎臓(妊娠13.0~13.5日)を子宮内のラット胎児に移植したところ、種間でも腎組織構造の成熟が確認された。
*ポッター症候群(Potter sequence)とは,両側の腎無形性や形成不全により羊水過少をきたし,肺低形成や四肢変形を生じる症候群である。1946年,Potterが 20例の肺の低形成,無脳症を伴う腎無形成の症例を報告した。
アブストラクト
本研究では、Potter症候群の新たな治療法として、異種間での胎児腎臓移植を試みました。GFP発現ラットから胎児腎臓を取り出し、他のラット胎児に移植することで、出生後も長期間にわたる尿産生が確認されました。また、免疫抑制剤を使用せずに拒絶反応が軽減されたことを示しました。この研究は、胎児期の臓器移植の可能性を示す世界初の報告です。
方法
GFPを発現するラットの胎児腎臓を、他のラット胎児に移植しました。移植は針を用いて胎児の皮下空間に行い、出生後、移植された腎臓の成熟と尿産生を観察しました。また、免疫抑制剤を使用せずに移植の成功を確認しました。
結果
- GFP発現ラットMNBsの胎児皮下空間への移植成功率:
GFP発現ラットの胎児腎臓および膀胱ユニット(MNBs)を、別のラット胎児の皮下空間に移植することに成功した。移植手術後、76%の胎児が自然分娩により生存し、移植成功率は平均88%であった。 - 移植されたMNBsの成熟と機能:
移植されたMNBsは、出生後28日間で成熟し、移植先のラットの血管が侵入して腎組織が形成された。超音波検査により尿嚢が確認され、移植された腎臓が尿を産生していることが示された。組織学的には、ネフリン陽性の糸球体細胞、LTL陽性の近位尿細管、ECAD陽性の遠位尿細管が観察され、腎臓が成熟していることが確認された。 - 尿排出方法の開発:
移植されたMNBsは尿を産生し、定期的な皮下の尿嚢の穿刺によって尿を体外に排出することが可能であった。穿刺は1週間に1〜2回行われ、最大150日間にわたり安定した尿排出が確認された。クリアランス測定により、移植された腎臓が溶質除去能力を持つことが示された。 - 免疫学的利点の確認:
GFP発現ラットの胎児腎臓を移植したラットでは、移植された腎臓が長期間にわたり尿を産生し続け、免疫抑制剤を使用せずに拒絶反応が軽減されたことが示された。これは、胎児移植には成人移植と比較して拒絶反応が少ないことを示唆している。 - 異種移植の確認:
マウス胎児の腎臓をラット胎児に移植した結果、腎組織の成熟が異種間でも確認された。しかし、異種移植の場合、免疫抑制剤を使用しなければ、長期的な機能維持は困難であることが示された。
議論
- 胎児移植の安全性と有効性:
本研究は、胎児期に腎臓および膀胱ユニット(MNBs)を他の胎児に移植し、機能する腎臓を作り出すことに成功した初の報告である。胎児期の移植には、免疫学的に有利な点があり、成人期の移植に比べて拒絶反応が少ないことが確認された。 - 皮下移植の利点:
胎児の皮下空間は、成人とは異なり、臓器の発育に適した環境であることが示された。成人の皮下移植では発育が不十分であったのに対し、胎児では尿産生が確認された。これは、胎児の皮下空間の物理的および空間的な特性が臓器移植に適していることを示している。 - 尿排出管理の重要性:
移植された腎臓が尿を産生するため、尿排出の管理が重要である。本研究では、皮下に移植されたMNBsの近くの皮膚表面から穿刺することで、非侵襲的かつ長期的に尿を排出することが可能であることが示された。 - 免疫学的優位性:
胎児期に移植された腎臓は、成人期に移植されたものよりも免疫学的な拒絶反応が少ないことが確認された。胎児移植では、移植された腎臓の血管がレシピエント由来で構成されるため、拒絶反応が少なくなると考えられる。 - 異種移植における課題:
異種間移植では、免疫抑制剤の使用が不可欠であり、免疫抑制剤なしでは長期的な移植の成功は難しいことが示された。しかし、胎児への異種移植は成人に比べて拒絶反応が少なく、さらに研究が進むことで新たな治療法が期待される。 - 将来の展望:
本研究は、重度の先天性腎疾患に対する新しい治療法の開発に向けた重要な一歩であり、今後はより大きな動物モデルを用いて移植方法や免疫学的解析を進め、最終的にはヒトへの臨床応用を目指している。
Nature Digest News in Focus
胎仔から胎仔への移植がラットで初めて実証された
日本の研究チームが、ラットを用いた画期的な胎児移植実験に成功した。東京慈恵会医科大学の腎臓専門医、横尾隆氏が率いるこの研究では、ラットの胎仔から摘出した腎臓組織を別の胎仔に移植することに成功した。これは子宮内の胎仔に臓器や組織を移植した初めての報告であり、将来的には腎臓を持たないヒト胎児にブタ胎仔の腎臓を移植するための重要な一歩となる可能性がある。
実験では、遺伝子操作により腎臓で緑色蛍光タンパク質を発現するラットを使用し、18日齢のラット胎仔の背中の皮膚下に腎臓組織を移植した。9匹中8匹の胎仔で移植が成功し、移植された腎臓組織は正常に発達して2週間半後には尿を作り始めた。さらに、宿主の血管が移植組織内で成長し、拒絶反応のリスクが低下したことも確認された。
研究チームは現在、マウスからラット、ブタからブタへの異種移植実験も進めており、最終的にはポッター症候群のヒト胎児にブタ胎仔の腎臓を移植することを目指している。多くの専門家がこの研究を画期的だと評価しているが、ヒトへの応用にはまだ時間がかかるという見方も示されている。
研究チームは、この技術の倫理的側面にも配慮しており、一般の人々との対話を通じて利点を伝え、信頼を得ようとしている。今後、倫理委員会や規制当局にヒトでの研究の承認を申請する予定だ。この研究は、胎児期の臓器移植の可能性を示す重要な一歩だが、ヒトへの応用には依然として多くの課題が残されている。

