Journal Club (June 1, 2024)

Nature volume 629, pages1082–1090 (2024) Published: 15 May 2024

Evolution of a novel adrenal cell type that promotes parental care (育児を促進する新しい副腎細胞タイプの進化)

Natalie NiepothJennifer R. MerrittMichelle UminskiEmily LeiVictoria S. EsquibiesIna B. BandoKimberly HernandezChristoph GebhardtSarah A. WackerStefano LutzuAsmita PoudelKiran K. SomaStephanie Rudolph & Andres Bendesky

Abstract

一夫一婦制のオールドフィールドマウス(Peromyscus polionotusは、最近、プロゲステロンを20α-ヒドロキシプロゲステロンに変換する酵素AKR1C18を発現する新しい細胞型を副腎に獲得した。20α-ヒドロキシプロゲステロンは、一夫一婦制の典型的な子育て行動を誘導するオールドフィールドマウスにおいて、近縁の乱婚性シカマウス(Peromyscus maniculatusよりも豊富であることを示した。これらの種間の交配における量的形質遺伝子座マッピングを用いて、我々は最終的に、オールドフィールドマウスにおけるこの細胞型の出現と機能に寄与する核タンパク質GADD45Aと糖タンパク質テナシンNの発現を駆動する種間遺伝的変異を見出した。この結果は、脳以外の腺における新しい細胞型の最近の進化が、社会的行動の進化に寄与している例を示している。

図1: オールドフィールドマウスにおける新しい副腎細胞タイプの同定と特徴付け)
Figure 1a:
図1aは、オールドフィールドマウスの副腎組織の免疫染色画像を示しています。
新しい細胞タイプは、AKR1C18酵素を発現していることが確認され、他の既知の副腎細胞とは異なる特徴を持っています。
画像では、AKR1C18陽性の細胞が赤色で染色されており、その分布と密度が示されています。
Figure 1b:
図1bは、プロゲステロンと20α-ヒドロキシプロゲステロンの濃度を示すグラフです。
オールドフィールドマウスの副腎で新しい細胞タイプが発現することにより、20α-ヒドロキシプロゲステロンの濃度が顕著に増加しています。
これにより、新しい細胞がプロゲステロンを20α-ヒドロキシプロゲステロンに変換していることが示されています。
Figure 1c:
図1cは、異なるマウス種(オールドフィールドマウスと別の種)間の交配実験結果を示しています。
オールドフィールドマウスの副腎で新しい細胞タイプが遺伝的に継承されることが確認されています。
QTL解析により、新しい細胞タイプの発現に関連する遺伝子領域が特定されました。
Figure 1d:
図1dは、新しい細胞タイプが親によるケア行動に与える影響を示す行動実験の結果を示しています。
新しい細胞タイプを持つマウスは、子育て行動が増加していることが明らかになりました。
具体的には、子どもへの餌やり、巣作り、子どものケアにかかる時間が増加しています。
これらの図は、新しい副腎細胞タイプがオールドフィールドマウスの親によるケア行動を促進するメカニズムを詳細に示しています。新しい細胞がプロゲステロンを20α-ヒドロキシプロゲステロンに変換し、このホルモンが親行動を増強することが明らかになりました。

要約: 本研究では、オールドフィールドマウスが進化させた新しい副腎細胞タイプが、親によるケア行動を強化することを示している。これらの細胞は、プロゲステロンを20α-ヒドロキシプロゲステロンに変換するAKR1C18酵素を発現し、この変換産物が親によるケア行動を増強することがわかった。

背景: 動物行動の進化とその遺伝的メカニズムについての理解はまだ十分ではありません。特に、特定の細胞タイプがどのようにして行動に影響を与えるかについては不明な点が多い。

方法: 研究チームは量的形質座解析(QTL解析)を用い、異なるマウス種間での交配実験を行い、副腎の新しい細胞タイプの存在とその行動への影響を調査しました。

結果:

  1. 新しい細胞の発見:
     オールドフィールドマウスの副腎には新しい細胞タイプが存在することが確認された。この新しい細胞は、特定の酵素(AKR1C18)を発現し、プロゲステロンを20α-ヒドロキシプロゲステロンに変換する。
  2. 行動への影響:
     この変換産物である20α-ヒドロキシプロゲステロンが、親によるケア行動を強化することが実験で示された。具体的には、このホルモンはマウスが子育てをする行動を増加させることがわかった。
  3. 量的形質座解析(QTL解析):
     異なるマウス種間での交配実験を行い、量的形質座解析を通じて新しい細胞タイプの存在を特定した。この解析により、特定の遺伝子領域が新しい細胞タイプの形成に関与していることが示されれた。
  4. 実験的確認:
     AKR1C18の発現を制御する遺伝子領域が新しい細胞タイプの形成に重要であることが確認されまた。この発見は、新しい細胞タイプがどのように進化し、行動に影響を与えるかを理解する上で重要な手がかりを提供する。

議論:

  1. 細胞タイプと行動進化:
     本研究は、副腎の新しい細胞タイプが行動進化に寄与することを示す重要な例となります。脳外の腺に新しい細胞タイプが現れることで、行動に直接的な影響を与えることができることが示された。これにより、動物行動の進化における新しい視点が提供され、行動と生理学的変化の関係についての理解が深まった。
  2. 新規性と意義:
     脳外の腺における新しい細胞タイプの進化が、行動進化に与える影響を示した初の研究であり、従来の研究では脳内のメカニズムが主に注目されていたのに対し、本研究は腺の細胞タイプの変化が行動に影響を与える可能性を提示している。
  3. 研究の限界:
     特定のマウス種に焦点を当てているため、他の種や他の要因との関連性についてはさらなる研究が必要である。また、新しい細胞タイプがどのようにして進化し、他の生理的機能にどのように影響を与えるかについても、追加の研究が求められている。
  4. 応用可能性:
     本研究の発見は、動物行動の遺伝的および生理学的基盤の理解を深めるための新しい道を拓く。特に、育児行動や社会的行動の進化を解明するための重要な手がかりとなるであろう。
図4: 新しい副腎細胞タイプと親によるケア行動を結びつける遺伝的および生理学的証拠
Figure 4a:
図4aは、新しい副腎細胞タイプの発現を調整する遺伝子の発現パターンを示している。
特定の遺伝子が新しい細胞タイプの発現に関連しており、この遺伝子の発現が親行動に重要であることが示されている。
グラフは、異なる遺伝子変異体を持つマウスの副腎での発現レベルの違いを示している。
Figure 4b:
図4bは、20α-ヒドロキシプロゲステロンの濃度と親行動の関連性を示すグラフである。
20α-ヒドロキシプロゲステロン濃度が高いマウスは、子育て行動が増加することが明らかになった。
データは、ホルモンレベルと行動スコアの相関関係を示している。
Figure 4c:
図4cは、新しい副腎細胞タイプを持つマウスと持たないマウスの行動実験の結果を示している。
新しい細胞タイプを持つマウスは、持たないマウスに比べて、子育て行動(例:巣作り、餌やり)が顕著に増加している。
グラフは、異なる行動項目ごとのスコアを比較している。
Figure 4d:
図4dは、親によるケア行動における遺伝子変異の影響を示している。
特定の遺伝子変異を持つマウスは、新しい副腎細胞タイプの発現が低下し、それに伴い親行動も減少している。
グラフは、遺伝子変異の有無と行動スコアの関係を示している。
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