第273回つくばブレインサイエンス・セミナーが開催されます

〇日時:2023年1月24日(火)18:00~

〇講演会場:筑波大学・医学エリア・健康医科学イノベーション棟8階講堂

〇演題:『個体間距離を制御における扁桃体中心核の役割』

〇演者:征矢 晋吾 (Shingo Soya) 先生(筑波大学医学医療系

〇要旨

社会性を持つ動物にとって、見知らぬ他者との物理的距離(ソーシャルディスタンス)を適切な範囲に維持することは円滑なコミュニケーションを行う上で必須である。一方で、他者との接近は情動応答の中枢である扁桃体を介して恐怖の情動を生起するとともに、自律神経、ストレス応答を惹起する。扁桃体が欠損することで恐怖の情動応答が減弱し、見知らぬ他者とのソーシャルディスタンスが近くなることから(Kennedy, 2013)、これらのメカニズムへの扁桃体の関与が示唆される。本研究では、扁桃体中心核(CeA)においてニューロペプチドB / Wに結合するGiタンパク共益型受容体(Npbwr1)を発現するニューロン(Npbwr1CeAニューロン)が個体間距離の変化に応答して社会的行動を調節することを明らかにした。Npbwr1CeAニューロンにCreが発現するマウス(Npbwr1-iCre, heterozygous)を用いて、Npbwr1CeAニューロンの細胞内カルシウム動態を測定した結果、新規個体との社会的接触により増加し、既知の個体との接触による変化は観察されなかった。Npbwr1CeAニューロンは、腹側外側嗅内皮質 (vlEC)、腹側 CA1 (vCA1) および分界条床核(BNST) から直接シナプス入力を受けており、線条体毛様部(SNL)、腕傍核 (PBN)、孤束核(NTS)、および微細胞被蓋核(MiTg)に投射することが明らかになった。密な投射が観察されたMiTg に焦点を当て、Npbwr1CeAニューロンの投射繊維を光遺伝学的に抑制した結果、同種の新規個体との社会的接触時間の減少および個体間距離の増加が観察された。さらに、ヒトのNPBWR1遺伝子における1遺伝子多型(SNP, 404A>T)はアミノ酸配列の変化(Y135F)を伴う受容体機能の低下を引き起こし、過度な情動応答の発現および情動刺激に対する心理傾向が異なることが報告されている(Watanabe et al., 2012)。CeA におけるNpbwr1の生理学的役割を理解するため、Npbwr1欠損マウス(Npbwr1-iCre, homozygous)のCeAに2種類のヒトNPBWR1遺伝子[NPBWR1(通常, 135Y)]または[NPBWR1(機能低下型, 135F)]を回復させた。135Fに比べて135Yを回復させた群では社会的接触時におけるNpbwr1CeAニューロンの活動増加は見られず、社会的接触時間の減少および個体間距離の増加が観察された。以上の結果から、Npbwr1CeAニューロンは新規個体との社会行動および個体間距離の調節に重要な役割を果たしており、Npbwr1はその活動を制御することで不必要な社会的接触を回避する機能を有する可能性が示唆される。

Grey rat near wooden wall on floor. Pest control

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