2021年5月25日(火)午後6時からオンライン講演(双方向型)
演題:『環境に依存して選択を切り替える神経メカニズム』
演者:國松 淳(Jun Kunimatsu)先生 (筑波大学医学医療系)
物体の価値は環境や状況によって変化するが、我々は経験や学習に基づいてそれを適切に判断し、行動を変化させることができる。環境(背景)の情報は脳内でどのように表現され、いかに物体の情報と統合されているのだろうか。これを調べるために、背景依存的物体選択課題を新たに考案した。この課題では、価値(報酬量)が異なる2つの物体が提示され、その価値は物体とともに提示される背景により変化する。この課題遂行中のサルの線条体尾側部から、中型有棘ニューロンと抑制性介在ニューロンの活動を記録した。その結果、半数の中型有棘ニューロンは背景によって、物体への反応を変化させた。また、残りの半数は背景にかかわらず、多くの報酬を示す物体に大きな反応を示した。つまり、中型有棘ニューロンは背景と物体の価値の情報のそれぞれをコードしていた。一方で、抑制性介在ニューロンは背景によって活動を変化させたが、どの物体に対しても同じように反応した。このことから、抑制性介在ニューロンは背景の情報のみを示すことが明らかとなった。つぎに、抑制性介在ニューロンが持つ背景情報が行動選択に影響を及ぼすかを調べるために、薬理学的に抑制性介在ニューロンの活動を抑制した。その結果、学習後の背景依存的物体選択課題の遂行には影響はなかったが、新しい背景と物体を用いた同課題の学習が阻害された。一方で、物体の価値そのものの学習には変化がなかった。これは、抑制性介在ニューロンがもつ背景の情報が、背景と物体の連合学習に必須であることを示している。 (参考文献)
1. Kunimatsu J., Maeda K. & Hikosaka O. (2019) The caudal part of putamen represents the historical object value information. J Neurosci. 39(9): 1709 –1719.
2. Kunimatsu J., Yamamoto S, Maeda K & Hikosaka O. (2021) Environment-based reversal of object values learned by local network in the striatum tail. PNAS. 118 (4): e2013623118.
http://www.md.tsukuba.ac.jp/tbsa/
