注意残余とマルチタスク

「注意残余(attention residue)」とは、あるタスクから別のタスクに切り替える際、前のタスクに対する注意や認知資源が完全には切り替えられず、残ってしまう現象を指します。これにより、新しいタスクに十分な集中力が向けられず、生産性やパフォーマンスが低下するということです。この概念は、現代のマルチタスクや頻繁な中断が常態化している働き方や生活スタイルにおいて重要な示唆を与えてくれます。大学教員は仕事の種類が多く、自然科学系の実験では様々なトラブル対応が必要です。研究活動や、プログラミングなどの作業のみならず、日常生活においても、効率的な注意の使い方とタスク管理の必要性を理解する上で役立つ考え方です。

背景と研究

この概念は、心理学者のSophie Leroyらによる研究で取り上げられ、2009年の論文などで広く紹介されました。研究によると、私たちはタスク間の切り替えを行うとき、完全に前のタスクから切り離されるのではなく、脳の一部が「注意残余」として残り、次のタスクに対する集中を阻害してしまうことが示されています。

具体的な例

  • プログラミングや執筆などの知的作業: 集中して作業を進めているときに、急なチャットの通知や会話の割り込みが入ると、直前の問題解決や思考の流れが中断され、その影響がしばらく続くため、再び高い集中状態に戻るのが難しくなります。
  • 会議中の割り込み: 複数の議題がある会議で、一つの議題から次の議題に切り替える際、前の議題について考え続けてしまうため、新しい議題への集中が散漫になるといった状況でも見られます。

注意残余が生産性に与える影響

  1. 認知資源の分散: タスクを切り替えた後も、前のタスクに関連する思考が脳内に残るため、現在のタスクに必要な認知資源が十分に確保できず、効率が下がります。
  2. タスク切り替えのコスト: 注意残余の存在が、タスク切り替えに伴う「再適応コスト」として働き、複数のタスクをこなす場合の全体的なパフォーマンスに悪影響を及ぼします。
  3. ストレスや疲労の増加: 頭の中で常に複数のタスクが混在する状態は、精神的な負担となり、長期的にはストレスや疲労感を引き起こす可能性があります。

対策

注意残余の影響を最小限に抑えるための方法としては、以下のような対策が考えられます

  • タスクのブロックタイムを設ける: ある一定期間、一つのタスクに集中する時間を確保することで、注意残余の発生を抑える。
  • 割り込みの管理: メール通知やチャットのポップアップなど、不要な中断を制限する工夫をする。
  • タスクの切り替えを意識する: タスクを切り替える際に、前のタスクの状況を簡単にまとめたり、次のタスクへの移行の儀式的な手順を設けることで、脳が切り替えやすくなるようにする。

最も効果的なのは、タスクの種類を減らすことと思います…(仕事の種類が多すぎる、人の補充がないので少人数で仕事しなくてはならない、など)。また、マルチタスクが得意な人とそうでない人の脳の特性はどのように異なるのか、興味深いところです。

Leroy, S. (2009). Why is it so hard to do my work? The challenge of attention residue when switching between work tasks.

Mark, G., Gudith, D., & Klocke, U. (2008). The cost of interrupted work: More speed and stress.
In Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (pp. 107-110). ACM.

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