完璧主義(パーフェクショニズム)は、物事を常に完璧にこなそうとするあまり、自分自身に過度な負荷をかけてしまいがちです。向上心があることは、研究だけでなく仕事でもとてもよいことです。完璧主義の人の責任感や誠実さが、周囲からの信頼につながります。一方で、「完璧でなければならない」という思考が強すぎると、かえってパフォーマンスやモチベーションに悪影響を与えることもあります。また、自分に対して厳しいがゆえに、周囲にも同じ水準の完璧さを要求してしまう場合があり、対人関係がギクシャクすることもあります (研究室では、教員は注意しなくてはならないことです…)。
完璧主義のデメリット
- 先延ばし(プロクラステイネーション)が増える
「完璧に仕上げなければ」と考えると、最初の一歩を踏み出すのに大きなエネルギーが必要になります。その結果、やらなければいけないことを「準備不足」「もっと調べたい」などの理由で先延ばしし、締切ギリギリになってから着手してしまうことが多くなります。 - 自己評価が常に低くなる
完璧主義者は、100点満点をとっても「もっと上があるのでは」とさらに厳しく評価したり、些細なミスを必要以上に責めたりします。そのため、自分の成果を素直に評価できず、自己肯定感が下がりやすくなる傾向があります。 - 創造性や柔軟性が損なわれる
完璧な解を求めているうちに、「失敗してもいいから色々試してみる」という柔軟さや発想の飛躍がしにくくなることがあります。リスクを避けようとしすぎるあまり、新しいアイデアやアプローチを試す勇気が削がれてしまいます。 - ストレス・不安の増大
「ミスしてはいけない」「完璧であるべき」という強いプレッシャーが持続すると、ストレスや不安を感じやすくなります。その結果、睡眠不足や疲れによる体調不良、思考の停滞など、心身に悪影響を与える可能性があります。 - 周囲との摩擦が生まれやすい
自分に対して厳しいがゆえに、周囲にも同じ水準の完璧さを要求してしまう場合があります。チームでの仕事では、「もっとちゃんとやってほしい」「なんでこんなミスをするの?」といった苛立ちが生まれ、対人関係がギクシャクすることもあります。
完璧主義のメリット
- 向上心や探究心が高まる
- 「もっと良いものを作りたい」「より高いレベルを目指したい」という思いが、学習やトレーニングのモチベーションになります。
- 自分が納得できるまで努力し続ける姿勢は、技術向上や知識獲得に大きく寄与します。
- クオリティ(品質)を重視できる
- 細部まで気を配ろうとするため、成果物の完成度や品質が高まることが多いです。
- 仕事やプロジェクトの成果物が高評価を得やすくなる場合もあります。
- ミスや不備を見逃しにくい
- 「完璧を目指す」という気持ちから、確認作業を念入りに行うことが多く、ミスや抜け漏れを減らせる可能性があります。
- セキュリティや安全性が重視される領域(医療、航空、建築など)では、この慎重さが強みになることがあります。
- 責任感が強い
- 完璧主義の人は、自分の仕事や役割に対して「きっちりやり遂げよう」という強い意識を持っています。
- その責任感や誠実さが、周囲からの信頼につながることもあります。
- 高い目標を設定しやすい
- 完璧を求めるあまり、自然と目標値が高くなる傾向があります。
- 高い目標にチャレンジしていく過程で、自己成長や新たなスキル獲得につながることがあります。
どのように「良い点」を活かしつつ、デメリットを最小化するか
- バランスを意識する
完璧を目指すあまり、先延ばしや過度な自己批判が続くと逆効果です。- 「ここまではきちんとこだわる、ここから先は80点でOK」といったように、力を入れる部分とそうでない部分の境界を自分の中でハッキリさせるとよいでしょう。
- 適度なタイムマネジメントを行う
完璧を目指すには時間もかかります。- 締め切りや他の仕事との兼ね合いを見極め、「何をどの程度完璧にするか」を考えることで、疲弊やストレスを減らせます。
- 客観的な評価軸を導入する
自分の中の「完璧」と世間一般の評価にはギャップがあります。- 第三者の視点やフィードバックを得ることで、「ここまでで十分評価される」という現実的なラインを把握しやすくなります。
- 小さな成功体験を大事にする
「完璧じゃないと意味がない」という思考だと、成果を素直に認めづらくなり、モチベーションを下げてしまうことがあります。- 小さなできたことや良い点にも目を向け、「自分は確かに成長している」という感覚を意識的に育てましょう。フィードバックポイントを自分で意識して探すようにしましょう。
「神は細部に宿る(Der liebe Gott steckt im Detail)」という言葉があります。19世紀のドイツの美術史家ヴァールブルク,あるいは20世紀初頭の建築家ミース・ファン・デル・ローエが言ったとされるこの言葉は示唆に富んでいます。より古い形 “Le bon Dieu est dans le détail” (“the good Lord is in the detail”、善い神は細部に宿る) は、通常、ギュスターヴ・フローベールが起源とされています。一見して簡単にできそうなことでも、完成までに予想以上の時間や労力を要することを指す、とされています。研究活動でも、この言葉は共感するところが多いのですが、学生にどのようにこの重要性を伝えたらよいのか試行錯誤しています。
