解剖学雑誌, 第71巻3号, 1996年6月
教育課程の大綱化と肉眼解剖実習の多様化 (The Broadening of Curriculum Standards and Diversification of Gross Anatomy Practicals)
著者 (Authors)
河野邦雄 (Kunio Kohno)
概要 (Abstract)
本稿は、日本における医学部・歯学部の解剖学実習の現状と、教育課程の大綱化に伴う実習時間の短縮、多様化について考察したものです。教育カリキュラムの改訂による影響を実習回数・時期・内容などから分析し、現行の解剖学教育の方向性と課題を提起しています。
背景 (Background)
教育課程の大綱化は、日本全国の医学部・歯学部で進行しており、解剖学の実習内容や時間配分にも大きな影響を与えています。これにより実習時間の短縮が進み、各大学で独自の実習方式や教育手法が求められる状況です。
方法 (Methods)
全国の医学部80校、歯学部29校を対象に、解剖学実習の実施回数や実施時期、実習形態に関するデータを収集しました。特に、従来の系統的実習から、同時進行やグループ実習といった新しい実習形式が導入されているかを調査し、データの比較分析を行いました【69†source】。
結果 (Results)
- 実習回数と地域差
平均実習回数は医学部で40.1回、歯学部で25.4回でしたが、地域差が見られました。中部や九州地方では他の地域よりも回数が少なく、特に九州地方では実習回数が30回を下回る大学が多く見られました。 - 実習の多様化
実習形式においては、同時進行やグループ実習などの新しい方式が導入され、複数の部位を並行して進める方式が増加しています。また、全体の約16%の大学が同時進行型を採用しており、時間の効率化が図られています。 - 実施時期の変化
かつては解剖学実習は主に3年生で行われていましたが、現在では2年生での実施が約70%に増加し、早期から解剖学に触れる機会が提供されています。また、実習の開始時期も春から秋に分かれる傾向が見られ、大学ごとに独自の教育方針が取られています。
考察 (Discussion)
大綱化による実習時間の短縮は全国的な傾向ですが、各大学が独自の実習形態を取り入れることで教育効果を維持しようとしています。同時進行型やグループ実習により、学生が能動的に学習に取り組む場が増えていますが、実習の回数が減少したことで実習内容の充実に向けた改善が必要です。また、低学年化に伴い、早期から実践的な学習に触れることで、学生の学習意欲が高まると考えられます。本研究は、全国規模で解剖学実習の実施状況を体系的に調査したものであり、同時進行やグループ実習といった新しい教育手法がどの程度普及しているかを明らかにしています。解剖学教育の多様化に関するデータを提供し、今後の教育改革の方向性を示しています。本研究の結果は、今後の解剖学教育の改訂やカリキュラム設計の指針となる可能性があります。特に、限られた実習時間内での効率的な学習方法の開発や、解剖学教育の質の向上を図る際に有用なデータとして活用されることが期待されます。
2024年12月05日掲載

そら ね ごらん
むかふに霧にぬれてゐる
蕈のかたちのちひさな林があるだらう
あすこのとこへ
わたしのかんがへが
ずゐぶんはやく流れて行つて
みんな
溶け込んでゐるのだよ
こゝいらはふきの花でいつぱいだ
「林と思想」