河野邦雄先生の研究活動1

河野邦雄先生は、筑波大学基礎医学系解剖学第一研究部門教授であり、日本の解剖学研究の発展に大きく貢献された研究者でした。その足跡を辿ります。

神経進歩 Advances in Neurology, 第26巻2号, 1982年

軸索形質膜の電顕的構造 (Electron Microscopic Structure of the Axolemma)


河野邦雄 (Kunio Kohno)

筑波大学 基礎医学系解剖学 (Department of Anatomy, Basic Medical Science, University of Tsukuba)

概要
本稿では、軸索の形質膜(axolemma)の微細構造を電子顕微鏡で解析し、特にランビエ絞輪と軸索初節の裏打ち構造について報告している。この構造が軸索膜におけるナトリウムチャネルの分布や活動電位の発生にどのように寄与しているかが検討されており、神経伝達に関する基礎的な知見を提供している。

背景
軸索は、神経細胞から他の細胞に信号を送る主要な構造であり、その膜の特性が電気信号の伝達効率に大きく影響を及ぼす。特にランビエ絞輪と軸索初節は、神経信号の発生・伝導において重要な役割を担っているため、これらの部位における形質膜の構造を明らかにすることが必要とされてきた。

方法
本研究では、電子顕微鏡と凍結割断法を用いて、ランビエ絞輪および軸索初節の膜構造を解析した。顆粒層、板状層、線維層という三層構造が軸索膜に存在し、これが膜を安定化させてイオンチャネルの分布を支えていることが観察された。また、各層の厚さや位置についても詳細に記述されている。

結果

  1. 軸索膜の三層構造
    軸索初節(initial segment)とランビエ絞輪では、以下のような三層構造が観察された:
    • 顆粒層:膜の内側に位置し、膜の安定性を高める構造。
    • 板状層:中央部分に位置し、膜全体の骨格となる層。
    • 線維層:最も内側に存在し、膜の形状維持に寄与する。
  2. ナトリウムチャネルの配置
    ランビエ絞輪には、ナトリウムチャネルが高密度に配置され、これが効率的な電気信号の跳躍伝導を可能にしていると考えられている。特に、チャネルが5000~12000/μ²の密度で存在し、活動電位が局所的に集中して発生するメカニズムを提供している。
  3. 膜裏打ち構造とイオン流の関係
    裏打ち構造が膜を物理的に支持し、イオンチャネルの配置を安定させることで、効率的なイオンの移動を可能にしていることが示唆されている。

Discussion
軸索膜の三層構造は、電気信号の発生と伝導において重要な基盤を提供しており、ナトリウムチャネルの効率的な配置と膜の安定性が神経伝達を効率化している。これにより、軸索内での跳躍伝導が効果的に行われることが明らかになった。軸索初節およびランビエ絞輪における三層構造の詳細な観察により、ナトリウムチャネルの分布が活動電位の効率的な発生にどのように寄与するかが明らかにされた。従来の研究では、形質膜の構造は単純に記述されていたが、本研究は膜の三層構造とその機能的意義を具体的に示した点で新規性がある。軸索膜の構造とチャネル配置に関する知見は、神経疾患や脱髄疾患に対する新たな治療法の開発に役立つ可能性がある。特に、膜の安定性やチャネル配置を操作することで、神経伝導の改善や修復が期待される。

Live as if you were to die tomorrow.
Learn as if you were to live forever.

-Mahatma Gandhi-

2024年11月26日掲載

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